アーカーシャ・クロニクル

 第20話  風守(かざも)り

 

 雨は次第(しだい)に勢いを増し続け、暴風雨と化していた。
 そんな中、ヴィル達は護衛民のザンフの案内で、港町クーリカ-への潜入に成功していた。
 今、ヴィル達は廃屋(はいおく)と化した宿屋に、潜(ひそ)んでいた。
ザンフ「もう少し、嵐が弱まったら、漁船を奪います」
ヴィル「分かった。船の操舵(そうだ)なら俺が出来るから、そこで別れよう」
ザンフ「はい・・・・・・」
 そして、ヴィル達は時を待ち続けるのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 一方で、護衛民のレイヴン達のもとには、黒い仮面を付けた騎士達が訪れていた。
レイヴン「これは、これは憲兵さん-がた。どうなされましたか?」
 すると、憲兵の隊長格が前に出た。
憲兵「昨夜、重大な反逆行為が行われた恐れがある。何か、話しておく事は無いか?」
 との憲兵の鋭い言葉に、レイヴンは-ひるむ事なく、口を開いた。
レイヴン「そりゃあ、どういう意味ですか?俺達は普通に任務を遂行していましたよ」
 それに対し、憲兵は無言でレイヴンを見据(みす)えた。
レイヴン(チッ・・・・・・嫌な連中だぜ。仮面をしているから、表情が読めねぇ・・・・・・)
 と、レイヴンは思うのだった。
憲兵「ドルフェ殿。この者達の心を」
 すると、影のように一人の魔導士が進み出た。
レイヴン(チッ。魔導士か。だが、ヒトの心を読む程の力を持ってるハズが無い。それは神話級の使い手か、もしくは読まれる側(がわ)に油断があるかだ・・・・・・)
 とは思うものの、ドルフェの魔力を見るに、あながち、本当に心を読まれるのでは無いかと言う恐怖も感じずには居られなかった。
 しかし、歴戦の衛士(えいし)である彼ら-は、そんな事を-おくびにも出さず、ただ、黙ってドルフェの魔術を見据(みす)えるだけだった。
 そして、長い長い数分がたち、ドルフェは術式を解いた。

憲兵「ドルフェ殿。結果は-いかに?」
ドルフェ「・・・・・・この者達、何やら心に秘めているモノがありまする」
レイヴン「おいおい。そんなん誰にだって-あるだろ?なぁ、お前ら」
 とのレイヴンの言葉に部下達は笑った。
 それを見て、憲兵は抜剣した。
レイヴン「穏やかじゃないな・・・・・・。茶化した事は謝るぜ」
憲兵「お前は・・・・・・上手く-ごまかしているつもり-なのだろうな。だが、本当にシロな者は-そのような態度は取らないのだ。もっと、怯(おび)え、震えるか、もしくは-つまらぬ疑いをかけられた事に憤(いきどお)るか。いずれにせよ、お前達の反応は演技が見える」
レイヴン「・・・・・・・意味が分からないな」
憲兵「我々を舐(な)めるな・・・・・・。違うのだ。お前達の行動は違うのだよ。無実な者と・・・・・・。今まで、多くの犯罪者を捕らえてきた。犯罪者は息をするように嘘を吐(は)く。だが、犯罪者の演技とは過剰なのだ。演技をしている分、自然さが失われる。お前達は落ち着きすぎだ・・・・・・。抜剣」
 との言葉に、他の憲兵も剣を抜いた。
レイヴン「やれやれ・・・・・・良く分からねぇが、やるっつーなら、相手をしてやるぜ。ただし、後悔はするなよ」
憲兵「その態度も不自然だと、気付かないのか?一つ教えてやろう。犯罪者は-こちらが信じているかどうかを知るため、こちらの表情を-伺(うかが)って来る。もっとも、そのための仮面なの-だがな。いずれにせよ、貴様ら-は、こちらの顔を覗(のぞ)きすぎだ」
レイヴン「チッ・・・・・・。何でもいいぜッ、かかって来いよッ!知った事かッ!お前達には分かるまいッ!あいつらの可能性を。あいつらは希望だッ!この世界の希望だッ!誰もが獣人を憎んだ。誰もが獣人を殺すのを当たり前と思ってきた。それをあいつらは否定した。分かるか?その意味が。それは今は、誰にも理解されないかもしれない。しかし、いずれ誰もが、彼らの思想を知る。誰もが、彼らの意思を知る。たとえ、その名が歴史に残らずとも、彼らの行(おこな)いは残り続けるだろう。その芽をこんな所で、潰(つぶ)されてたまるかッ!」
 と叫び、レイヴンは抜剣した。
 それに、レイヴンの部下達は続いた。
憲兵「気を付けろ・・・・・・。この男、聖騎士でこそ無かったモノの、元(もと)-教導-騎士団だ」

レイヴン「はっ。教導-騎士団っつっても、聖騎士とか呼ばれて、自分達が選ばれた存在だと勘違いしちまった馬鹿共の-伸びきった鼻を、叩き直してやるだけの、簡単な仕事だがな」
憲兵「なるべく、生かしたまま捕らえろ」
レイヴン「ああ。そうして-やるよ」
憲兵「・・・・・・かかれ」
 との命令を合図に、両陣営は-ぶつかりあった。

 

 ・・・・・・・・・・
 雷鳴が港町に、なり響いた。
 そして、黒い甲冑(かっちゅう)に身を包んだ騎士達が周囲を捜索していた。
ヴィル(マズイ・・・・・・。この様子だと包囲網が形成されている。しかも、これはプロだ。今までの追っ手と違い、簡単には逃げられない・・・・・・)
 すると、護衛民のザンフがヴィルに近寄った。
ザンフ「俺が囮(おとり)に・・・・・・なりましょう」
ヴィル「しかし・・・・・・」
その言葉に対し、ザンフは答えず、ゴブリンのレククの
もとへ歩いて行った。
 その巨漢にレククは思わず、怯(おび)えてしまった。
ザンフ「君は・・・・・・ゴブリンの姫・・・・・・なのか?」
 とのザンフの言葉を黒猫に憑いたトフクが訳した。
 そして、レククは-こくりと頷(うなず)いた。
ザンフ「俺の妹はゴブリンに殺された。酷(むご)たらしい殺され方(かた)だった・・・・・・。妹は・・・・・・俺と違い、母に似て美しく・・・・・・自慢の妹だったッ」
 と言って、ザンフは言葉を区切った。
ザンフ「・・・・・・母は・・・・・・心を狂わせ・・・・・・病気で死んだ。父は、怒り、義勇軍に参加し、戻らなかった。俺は村を守るために、残り、生き残った。俺は・・・・・・ゴブリンを許せない。絶対に」

 そう言って、ザンフは大剣を抜いた。
トゥセ「おいッ!」
ヴィル「待て・・・・・・」
 ヴィルはトゥセを制した。
ザンフ「答えろ・・・・・・。お前は、ヒトを殺すか?ヒトを殺す-
よう命(めい)じるか?どうだ・・・・・・?」
 との言葉をトフクは訳した。
レクク「ごめん・・・・・・なさい・・・・・・。ごめん・・・・・・なさい」
 と、レククは泣きながら謝るのだった。
 それに対し、ザンフは-ため息を吐(つ)き、大剣を背に戻した。
ザンフ「怖がらせて・・・・・・すまなかった・・・・・・。その言葉で、俺は戦える・・・・・・。ヴィルさん、後は任せます」
 と言って、ザンフは強面をほころばせた。
ヴィル「ああ。任せてくれ」
 そして、ヴィルとザンフは互いに敬礼を交(かわ)した。
ザンフ「では・・・・・・」
 そう言い残し、ザンフは音も無く、その場を後にした。

 しばらくし、遠くから怒声と金属音が聞こえた。
ヴィル「行くぞッ!」
 とのヴィルの言葉に、ヒヨコ豆-団は、答えるのだった。

 

 ・・・・・・・・・
 雨の中、騎士達を相手に、ザンフは鬼神の如(ごと)くに挑んでいた。
 そして、ザンフは大剣を鞘に入れたまま振るっており、
未(いま)だ騎士達に一人も死者は出ていなかった。
 しかし、ザンフの一振りで、また騎士達が吹き飛んで行った。
騎士A「ば、化け物かッ・・・・・・」
隊長「ええい、囲め、囲めッ!背には、目は付いておらん」
 との騎士の隊長の言葉に、騎士達はザンフを囲みだした。
ザンフ「オオオオオッッッ!」
 とのザンフの叫び声で、周囲の大気は震えた。
 しかし、騎士達も怯(ひる)まず、果敢(かかん)に立ち向かうのだった。
 それに対し、ザンフは巨体に似合わず俊敏(しゅんびん)な動きで、次々と騎士達を倒していくのだった。
 すると、屋根の上から何かが降ってきた。
 ザンフは-とっさに大剣で、それを防いだ。
 見れば、黒の軽装備に身を包んだアサシン(忍び)がザンフに対し、次々と攻撃を加えていた。
ザンフ(こいつッ・・・・・・暗部(あんぶ)かッ・・・・・・)

 と、ザンフは確信した。
 そして、ついにザンフの鎧のつなぎ目に、アサシンの短剣が突き刺さった。
 しかし、ザンフはアサシンを蹴り飛ばし、距離を保(たも)った。
 すると、ザンフは体の異変を感じた。
ザンフ(これは・・・・・・麻痺(まひ)?・・・・・・毒では無いだけ、マシか)
 と思い直し、大剣を構えるのだった。
 一方で、アサシンは新たな短剣を抜き、仮面越(ご)しに無表情にザンフを見据(みす)えるのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 一方、ヴィル達は漁船を奪いに駆けていた。
 見れば、嵐の中、漁師達が、船が流れていかないように、係留索(けいりゅうさく)を増していた。
ヴィル「あれを取るぞッ!」
 そして、ヴィル達は一番-大きな漁船に乗り込んだ。
漁師(りょうし)「おいッ!何すんじゃ、ワレッ!」
 と、漁師は怒鳴(どな)るも、ヴィルの大剣が向けられると、大人しくなった。
ヴィル「これで、許してください」
 そう言って、ヴィルはクオーツからもらっていた金貨の袋を
置き、係留索を斬った。
 そして、漁船はヴィル達を乗せて、嵐の中、流されていった。
漁師「ワシの船・・・・・・」
 と、漁師はポカンと呟(つぶや)くのだった。
 すると、漁師の見習いである-乗り子が叫んだ。
乗り子「お、親方(おやかた)ッ!」
漁師「な、何じゃ?今、それどころじゃ」

 しかし、その目も-乗り子の持つ金貨の袋に吸い寄せられた。
 漁師はバッと金貨の袋を奪い、辺(あた)りをキョロキョロ見渡した。
漁師「よし・・・・・・盗難-届けを出そうかの。グフフ、これで、損失金が返ってくれば、大もうけ-じゃないか。お前達、今、見た事を内緒だぞ。内緒。グッフッフ」
 と言って、漁師の親方は高笑いをあげるのだった。
 しかし、彼は知らない。
 後に-それがばれ、詐欺(さぎ)として捕まる事を・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・・
 ザンフは動きを鈍らせながらも、必死に剣を振るっていた。
 その視界は霞(かす)み、全身は小刻みに震え、冷たい汗が流れた。
 それでも、懸命にザンフは戦い続けた。
 そんな中、ザンフの意識は朦朧(もうろう)としていった。
 そして、過去の情景、燃えさかる村の姿が脳裏に蘇った。
ザンフ(俺は・・・・・・逃げてしまった。あの日、ゴブリンが攻めて来た時、戦えなかった。アンネが、妹が奴らに連れ去られて行くのを見ている事しか出来なかった。この大きな体は何のために、あるのか・・・・・・。大切なヒトを守るためじゃ無いのか・・・・・・。だが、俺は・・・・・・。いや、だからこそ、俺は、今度こそ、誰かを守りたい。たとえ、それがゴブリンの少女だったとしても・・・・・・)
 と、決意を固め、ザンフは雄叫びをあげ、大剣を振るうのだった。

 

 いつしか、ザンフの意識は穏やかな日差しの中にあった。
 そこでは麦わら帽子をかぶった美しい少女の姿が-あった。
 それはザンフの妹-アンネのかつての姿だった。
ザンフ「アンネ・・・・・・?」
アンネ『お兄ちゃん、私は大丈夫だよ。お父さんと、お母さんと、こっちに居るよ』
 とのアンネの言葉と共に、ザンフの父と母も現れた。
 そして、アンネ達の姿は薄れていった。
ザンフ「待ってくれッ!俺は・・・・・・俺は・・・・・・謝りたいんだ。
    俺は逃げたんだ。逃げてしまったんだ」
 と、ザンフは涙ながらに言うのだった。
 すると、母が口を開いた。
母『でも、あなたは立派に戦っているでしょう、ザンフ?今、あなたは-とても立派な行(おこな)いをしているのよ・・・・・・。今、あなたのした行いは、きっと-あなたを救うわ』
 すると、リンと錫杖(しゃくじょう)の鳴る音がした。
父『ザンフ・・・・・・。大丈夫だ。お前は大丈夫だ。
  だから、そう泣くな』
ザンフ「俺は・・・・・・俺は・・・・・・ッ、許されたいんだ。許されたい・・・・・・」

アンネ『お兄ちゃん、私は、お兄ちゃんを恨んでないよ。本当だよ。だから、自分を許してあげて・・・・・・』
ザンフ「自分を許す・・・・・・」
アンネ「うん。ああ、もう時間みたい。お兄ちゃん、元気でね」
 そして、アンネ達の姿は完全に消えていった。
父『お前に、ミロクの加護が-あらん事を・・・・・・』
 との父の言葉が最後に聞こえた気がした。

 

 雨がザンフの血を流していた。
 ザンフは意識を失ったまま立ち尽くしていた。
 それを騎士達やアサシンは囲んでいた。
 すると、ザンフは笑い出した。
アサシン「狂ったか・・・・・・」
 とアサシンは、ぼそりと呟(つぶや)いた。
ザンフ「お前達・・・・・・お前達には分かるまい・・・・・・。俺は今、許された。許されたのだ・・・・・・。これが、俺にとり、どれ程の意味があるか、分かるまいッ・・・・・・。やっと、やっと、俺は自身を許す事が出来たんだ。感謝しよう。ヴィルさん、ゴブリンの少女よ。あなた達の-おかげで、俺の魂は楔(くさび)から解き放たれた」
 そう言い、ザンフは再び、大剣をゆっくりと構えた。
アサシン「お前達は見ていろ。私が-やる」
 そう言って、アサシンは魔力を高めた。
 一方で、ザンフは大剣に残る魔力を通すのだった。
 雨の音のみが辺りに満ちた。
 そして、アサシンが暗殺技を放ち、それをザンフが迎え撃った。
 次の瞬間、アサシンは吹き飛ばされ、騎士達にぶつかり、地面を転がった。
アサシン「あ・・・・・・ガッ・・・・・・」
 と、呟(つぶや)き、アサシンは倒れた。

ザンフ「安心しろ・・・・・・。急所は外してある・・・・・・」
 と、ザンフは呟(つぶや)くのだった。
しかし、一方で、ザンフの右(みぎ)肘(ひじ)には、短剣が刺さっており、ザンフの右腕は-もう動かなかった。
 そして、ザンフは大剣を地面に落とした。
隊長「か、かかれッ!」
 との隊長の言葉に、騎士達は一斉(いっせい)に襲いかかった。
 それをザンフは拳で殴りつけるも、次第に、残った-わずかな体力も失われていった。
ザンフ(ヴィルさん・・・・・・どうか、ご無事で・・・・・・)
 そして、ザンフは意識を失うのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 ヴィル達は大時化(おおしけ)の中、必死に船が転覆(てんぷく)しないように働いていた。
トゥセ「やべぇ、これはマジで、やばいって!カシム、結界とか張れないのかよッ」
 と、トゥセは叫んだ。
カシム「ッ、既(すで)に張ってます。ただ、長時間、これだけ大きな船にかけるとなると、どうしても微弱な結界になってしまうんです」
 と、カシムは叫び返した。
ケシャ「・・・・・・マズイですね。来ます」
 と、茶猫のケシャが呟(つぶや)いた。
 すると、嵐の中を何かが近づいて来た。
トゥセ「おいッ。う、嘘だろ・・・・・・」
 と、トゥセは唖然(あぜん)としながら言った。
アーゼ「風守(かざも)り・・・・・・」
 とのアーゼの呟(つぶや)きと共に、風守(かざも)りのサリアは船へと降り立った。
ヴィル「・・・・・・サリア・・・・・・なのか?」
 とのヴィルの言葉に、サリアは悲しげに告げるのだった。
サリア「ヴィルさん、あなたをククリ島へと行(ゆ)かせるワケにはいきません」

 と。

 

 ・・・・・・・・・

 

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