アーカーシャ・クロニクル

 第18話  聖女

 

 ヴィルとトゥセはテントの中で護衛民の隊長であるレイヴン
と向き合っていた。
ヴィル「・・・・・・お久しぶりです。教官」
 とのヴィルの声にレイヴンは精悍(せいかん)な顔をほころばせた。
レイヴン「教官か。懐かしいな。とはいえ、お前やローの面倒を見たのも、せいぜい、半年くらいだろう?」
ヴィル「はい。そうでした・・・・・・」
レイヴン「しかし、お前達は本当に優秀だったよ。特に-お前は最年少で聖騎士の資格を得た。いや・・・・・・剣聖を-除いてだが」
ヴィル「運が良かっただけです」
レイヴン「運だけで聖騎士になど-なれるモノか。もっとも、最近では、コネさえあれば簡単に聖騎士になれるようだがな・・・・・・。嘆かわしい事だ」
トゥセ「あ、あのー・・・・・・」
 と、トゥセは-おずおずと声を出した。
レイヴン「ん?何だ?」
トゥセ「ええと。何で助けてくれるんですか?」
レイヴン「はは、単刀直入だな。だが、戦場では必要な事だ。まぁ、単純に言えば、昔のよしみかな。それにだ。俺はヴィルに大きな借りがある。こいつは俺の-故郷を守ってくれた。港町のクーリカを」
トゥセ「な、なる程・・・・・・」
レイヴン「しかし、良く俺達が味方だと分かったな」

ヴィル「いえ。遠目から、あれが教官の部隊だと分かりました。ただ、もし、教官が本気で俺達を捕まえようとするなら、灯りなど点(つ)けるワケが無いと思ったんです」
レイヴン「なる程。確かに、その通りだ。まぁ、ともかく、簡潔に事情を話してくれ。そっちのダーク・エルフは他の仲間達に-その場で待機するよう伝えておくと良い」
ヴィル「トゥセ。そうしてくれ」
トゥセ「あ、はい」
 そして、トゥセはヴィルの指示に従い、テントを出て行った。
レイヴン「さて、話してくれ。お前が何を思い、反逆者となったかを」
ヴィル「はい。実は・・・・・・」
 そして、ヴィルは事情を全て説明した。
 それに対し、レイヴンは真剣に聞き入り、頷(うなず)いていた。
ヴィル「というワケなんです」
レイヴン「なる程。大体の事情は把握した。フッ、しかし、お前は-いつも、変な道を行(ゆ)くな、ヴィルよ」
 とのレイヴンの言葉に、ヴィルは罰が悪そうに頭をかいた。
ヴィル「すみません・・・・・・」
レイヴン「いや、褒(ほ)めているんだ。お前の理念は俺も頷(うなず)ける。まぁ、ゴブリンどもが憎くないかと言われれば、憎いとしか言いようも無いが。しかし-だ。確かに交戦規定は守るべきだ。そう、たとえ相手がゴブリンであろうと、非戦闘員を攻撃するのは良くない。何故なら、もし、それをすれば、ゴブリン達も発狂して、反撃してくるだろうからな」
ヴィル「はい・・・・・・」
レイヴン「俺は正直、皇国とゴブリンが仲良くしている未来を思い描く事は出来ない。しかし-だ。戦争が最も効率の悪い外交であるとは認識している。いたずらに、ゴブリンを殺し、憎しみの種をまき、新たな戦争を巻き起こすのは、皇国にとりも、良くない。俺は-そう思うよ」

ヴィル「はい・・・・・・」
レイヴン「もし、お前の言う事が正しければ、ゴブリンの姫は人間やエルフを憎む事は無いだろう。彼女が生きている内くらいは、戦争が起きづらくなるかも知れない。もっとも、ククリ島への侵攻の結果しだいではあるがな」
ヴィル「はい・・・・・・」
レイヴン「そう暗い顔をするな。俺だって素直に、ゴブリンとヒトが仲良くするのは良い事だとは思う。頭の中じゃ分かってるんだ。しかし、腹の底には落ちてかない。やはり、仲間がゴブリンに殺されているしな。とはいえ、だ。それでも、それが、正しいとは思うワケだ。だから、お前達に協力をしよう」
ヴィル「ありがとう-ございます」
レイヴン「いや、いいんだ。さっきも言ったが、お前には借りがある。大きな借りがな。少しは借りを返させろ」
ヴィル「すみません・・・・・・」
レイヴン「謝るな。ともかく、時間を稼いでやる。それと、部隊から一人、信用できる男を貸してやる。ただし、そいつはククリ島へは連れて行かないでくれよ。俺の右腕なんだ」
ヴィル「分かりました」
レイヴン「良し、なら早速、とりかかろう。善は急げだ」
 そう言って、レイヴンは部下を呼びに行くのだった。

 

 そして、レイヴンは一人のガタイのいい男を連れてきた。
レイヴン「こいつはザンフだ。寡黙(かもく)だが、良いヤツだぞ。こいつに道案内と船の手配をさせよう」
ヴィル「ありがとう-ございます」
レイヴン「しかし、ヴィルよ。お前も運が無いな。あの獣道、主な道は一本だが、少し外れれば複雑に入り組み、追う事は出来なくなる」
ヴィル「もう少し、早く道を外れているべきでした」
レイヴン「だが、裏目に出てしまったな。あの道を聖騎士のお嬢さんに教えたのは俺なんだ。ずいぶんと、まぁ、あっさりと信じてくれたよ」
ヴィル「聖騎士ミリトの事ですか?」
レイヴン「ああ。もっとも、あれを聖騎士とは呼びたく無い-がな。まぁ、才能は-あるから後、十年ほど鍛えれば少しは-まっとうになるだろうが」
ヴィル「相変わらず、手厳しいですね」
レイヴン「それが仕事だったからな。特に、お前やローを育てた後では-なおさらだ」
ヴィル「そ、そうですか・・・・・・」
レイヴン「フッ。しかし、聖騎士ミリトか。あれは危(あや)ういな」
ヴィル「と言いますと?」
レイヴン「生真面目(きまじめ)すぎる。ああいう手合(てあ)いは、戦場ですぐに壊れるぞ。もしくは正義に殉(じゅん)じ、クーデターでも起こすようなタイプだ」
ヴィル「まさか」
レイヴン「いや、俺の勘は当たるぞ。もしかしたら、彼女はいずれ世に名を残すかもな。しかし、それは偶像としてだろう。たとえば、聖女として、とかな」

ヴィル「はぁ・・・・・・?」
レイヴン「まぁいい。まぁ、戦術書でも言うだろう?有能な怠(なま)け者は指揮官に、無能な働き者は最前列に出せと。お前は前者だな」
ヴィル「そ、それは光栄です」
レイヴン「まぁいい。とはいえ、辛口になってしまったが、俺としても聖騎士ミリアは嫌いでは無いんだぞ。むしろ、可愛(かわい)らしいと思うがな」
ヴィル「教官の好みですか?」
レイヴン「どうかな?ただ、放っておけない儚(はかな)さが-あるな。ただ、あれはジイさん-うけするだろうなぁ。聖騎士のジイさん達の好みだろうさ」
ヴィル「はは。かもしれませんね」
レイヴン「まぁ、悪い子じゃ無いんだろうさ。悪い子では。だからこそ、タチが悪いんだがな・・・・・・。さて、つい長話になってしまったな。名残(なごり)は惜しいが、お別れだ。生きろよ、ヴィル」
ヴィル「はい。教官こそ、お気を付けて」
レイヴン「誰にモノを言ってる。まぁ、いいさ。ザンフ、任せたぞ」
 との言葉に、ザンフは無言で頷(うなず)いた。
ヴィル「では。行って参ります」
レイヴン「ああ」
 そして、ヴィルとザンフはテントを出るのだった。
レイヴン「フッ。しかし、何も変わってないな、あいつは。とはいえ、俺の運命も-どうなってしまう事やら」
 すると、レイヴンの胸が不自然に高まった。

 そして、レイヴンの脳裏にビジョンが浮かんだ。
 それは白銀の鎧をまとい、偽りの聖十字をかかげ、人々を導く-壮麗(そうれい)なミリトの姿だった。
 その後ろをレイヴンと部下達が、誇り高く付き従っていくのだった。
 しかし、その道の先は髑髏(どくろ)と血にまみれており、骨の山と-血の池の中、冷たく、暗い霊気が立ちこめるのだった。
 さらに、景観は一転し、美しい泉の前でレイヴンは血まみれのミリトの肢体(したい)を抱きかかえていた。
 泉の底へ、幾千の灯火にもまさる輝きを放つ-精霊より賜(たまわ)りし-宝剣が帰っていく情景。
 その果てに、レイヴンの意識は現実に戻った。
レイヴン(今・・・・・・のは。俺の婆さん-は呪〈まじな〉い士で先読みの力を持っていたが、まさか・・・・・・な)
 と、レイヴンは不思議な予感の中、思うのだった。

 

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