アーカーシャ・クロニクル

 第17話  護衛民

 

 聖騎士エリーの闘気に、周囲の白百合-騎士団の隊員達は畏(おそ)れを感じていた。
クオーツ「それは、本気で言ってるのですか?」
 と、クオーツは困ったふうに言った。
エリー「はい。皇子殿下・・・・・・。なにとぞ、なにとぞ、反逆者と行動を共に、なさらないでください」
 と、エリーは剣を構えながら言うのだった。
ミリト「ま、待て、エリーッ!お前、自分が何をしているか」
エリー「分かっておりますッ!皇子殿下に剣を向けた時点で死を覚悟しております」
 そう言って、エリーは手首を斬った。
 エリーの左手からは-おびただしい血が、こぼれだした。
エリー「皇子殿下。皇子殿下が強い決意でククリ島へと赴(おもむ)かれようと-しているのは、分かります。ですが、皇国に忠誠を誓う聖騎士として、それは、それだけは絶対に、許す事が出来ません。故に、力づくで止めさせて頂きたく存じます」
クオーツ「・・・・・・聖騎士エリー。頼むから手当(てあて)をしてくれ。いや、何を言っても無駄か・・・・・・。分かった。決闘だ。その血が尽きる前に、君を倒し、俺は先を進むよ」
エリー「私の心配は-ご無用。この決闘の勝敗が-どうであれ、私は命を捧げる所存で御座(ござ)います」
クオーツ「・・・・・・重いな。それが、聖騎士の覚悟か。なら、俺も真剣に-かかろう。ヴィルさん、使わない方の剣を貸してください」
ヴィル「は、はい」
 そう言って、ヴィルは安物の剣をクオーツに渡した。
クオーツ「行きます」

 そして、クオーツは一気にエリーへと剣を振った。
 それに対し、エリーは-その大きな体に似合わず、俊敏(しゅんびん)な動きを見せ、次々とクオーツの剣を弾(はじ)いていった。
 その死闘を見て白百合-騎士団の面々は、唖然(あぜん)とした。
ミリト(馬鹿な・・・・・・。何て速さだ。これが、エリーの本当の実力?気付かなかった。これだけ離れて居ても、動きを目で捕らえきれない)
 と、ミリトは半ば放心しながら思うのだった。
 周囲を大量の火花が散っていった。
クオーツ「クッ・・・・・・」
 流石(さすが)のクオーツも一級の聖騎士-相手では、苦戦していた。
 すると、何かが白百合-騎士団の方へと飛んできた。
女騎士「何・・・・・・これ?」
 そして、頬を拭(ぬぐ)うと、それは血だった。
 エリーの血が周囲に-まき散っているのだった。
女騎士「ヒッ」
 と、女騎士は叫びをあげるのだった。
クオーツ(マズイ・・・・・・早く戦いを終わらせないと、エリーさんの体が・・・・・・仕方無いッ)
 そして、クオーツは一旦(いったん)、エリーから距離を取った。

 一方で、エリーは血を大量に流しながらも、唇を噛(か)み、意識を保(たも)っていた。
クオーツ「・・・・・・俺が甘かったです。本当の本気で行きます」
 そう言って、クオーツはヴィルからもらった剣を地面に-突き立て、背中の自身の剣を抜き放ち、魔力を通すのだった。
 その剣は-あまりに神々しく、並の剣では無いと-その場の誰もが感じた。
 対して、エリーは魔力を全開にして、最上級-剣技を構築した。
 それに対し、クオーツは-ただ、肉薄し、剣を振るった。
 次の瞬間、エリーの最上級-剣技と、その剣は砕けた。
エリー「ッ・・・・・・」
 エリーは自身の敗北を悟り、力なく両膝(りょうひざ)を地面に着いた。
 クオーツは-ゆっくりと剣を鞘(さや)に収め、エリーの方を向き直った。
 誰もが言葉を発せ無かった。
エリー「無念です。皇子殿下が死地に向かわれるのを見ている事しか出来ぬなど・・・・・・」
 と、言うのだった。地面には血だまりが出来つつあった。
 それを見て、クオーツは悲しげにエリーを見つめた。
クオーツ「・・・・・・分かりました。俺の負けです。ククリ島に行くのは諦めます。ヴィルさん、申しわけ-ありません。俺は、そっちには行けません」
 と、クオーツはヴィルに対し、言うのだった。

ヴィル「いえ。その優しさこそが皇子殿下の美徳です。確かに、皇子殿下が来て下されば、百人力どころでは無いでしょうが、我々も戦士です。自分達の力だけで、何とかやってみます」
クオーツ「旅の安全を願っています。ヴィルさん、それにヒヨコ豆-団の皆さん」
 と言って、クオーツは胸に手を当て、敬礼した。
 それに対し、ヴィル達も敬礼を返すのだった。
クオーツ「ともかく、手当(てあて)を」
 そう言って、クオーツは包帯を取りだし、エリーの手首に巻いた。
エリー「お、皇子(おうじ)殿下、お止め下さい」
 と、エリーは-うろたえるのだった。
 そして、騎士団の治癒(ちゆ)術士が駆けつけ、治療を開始した。
 それを軽く見届け、ヴィルは背を向けた。
ヴィル「さぁ、行こう。旅は-これからが本番だ」
 とのヴィルの言葉に、トッセ達は『オオッ!』と答えるのだった。
 その様子を聖騎士ミリトは見ている事しか出来なかった。
ミリト(負けた・・・・・・完全に私は負けた。私じゃ手の届かない領域の騎士達が、これ程まで存在するなんて。何より、エリー・・・・・・。お前、お前が-それ程、強かったなんて。滑稽(こっけい)だな。あぁ、滑稽だ、私は)
 と思い、ミリトは天を仰(あお)いだ。
ミリト「フフッ、フハハハハッ。アッハッハッハッハ!」

 と、乾いた笑いをあげるのだった。
エリー「ミリト様?」
 と、治療を終えたエリーが心配そうに声を掛(か)けた。
ミリト「エリー・・・・・・。聖騎士エリー。以後の指揮は-お前がとれ・・・・・・」
エリー「で、ですが・・・・・・」
ミリト「私は疲れた・・・・・・。ふ、フフフ」
 と、言うミリトの瞳には-どこか狂気が感じられた。
エリー「・・・・・・了解いたしました。カレーヌ分隊は、ミリト様の護衛の任につけ。伝令隊は急ぎ、状況を最寄りの-ケセラ支部へと伝えよ。残りは第3守護陣を皇子殿下を中心に展開。急げッ!」
 とのエリーの命令に、白百合-騎士団は迅速(じんそく)かつ規律正しく従った。
 そして、クオーツを囲うような陣が出来上がった。
エリー「全体ッ、半歩で、前へ進めッ!」
 との号令で、騎士団は規則正しく、足を上げ、ゆっくりと進むのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 夜の海を灯台からの光が照らしていた。
 その光は漁船や貨物船が座礁(ざしょう)しないように導いているのだった。
 そして、その灯台の上に、一人の杖を持った女性が立っていた。
女性「風・・・・・・風の声が聞こえる。あの人が-やって来ると」
 と、呟(つぶや)くのだった。
 そして、女性は目を瞑(つむ)った。
女性「ヴィルさん・・・・・・」
 との女性の-か細い声は、誰の耳にも届かぬまま、夜の海に消えていった。

 

 ・・・・・・・・・・
 ヴィル達は夜の道を歩いていた。
トゥセ「団長・・・・・・しかし、なんか、パーティが-どんどんむさくなっていく気がするんすけど」
ヴィル「はは、まぁ、楽しくていいじゃないか」
トゥセ「でも、そろそろ女性も増えていいと、思うんす」
 すると、カシムが口を開いた。
カシム「そうだ。トゥセさんは知らないと思いますけど、ケシャさん-は女性ですよ」 
 と言って、カシムは茶猫のケシャを見た。
トゥセ「あ・・・・・・そうですか・・・・・・」
ケシャ「ちなみに、陛下も女性です」
 と、茶猫のケシャは口を開き説明した。
ヴィル「あ。ケット・シー陛下も女性だったんですか」
ケシャ「はい。とても-お美しいです」
 と、頷(うなず)いて言うのだった。
ギート「しかし、猫がしゃべるというのも、不思議なモンじゃな」
 と、ドワーフのギートは言うのだった。

ケシャ「普段は-しゃべらないように、しています。私が-ただの猫と思わせておいた方が、後々、役立つ事も-あるでしょう」
アーゼ「はぁ・・・・・・。良く考えているんですね」
トゥセ「ところで、団長。港町で漁船を-どうやって、調達するんです?」
ヴィル「実は港町クーリカに知り合いが居るんだ。風守(かざも)り-の」
アーゼ「風守(かざも)り-って船が無事に港に着くように、監視しているヒトですよね?」
ヴィル「ああ。獣魔-大戦の折り-に知り合ってな」
トゥセ「へぇ、まぁ、どうせ、ゴツイおっさん-なんでしょ?今までの流れから行くと」
ヴィル「いや、当時、15だったから、今は27か、そこらだと思うぞ」
トゥセ「あ、そうすか」
アーゼ「トゥセ。風守りって、ほとんど女性だぞ」
 とのアーゼの言葉に、トゥセは耳をピクつかせた。
トゥセ「団長ッ。なんすか、それ。おかしいですよね?そ、そんな知り合いが居るなんて。し、しかも出会いが、15?は、犯罪ですよ、これ」
 と、トゥセは全身を震わせながら、ヴィルに詰め寄った。
ヴィル「別に、お前が思ってるような事は、何も無いって」
トゥセ「嘘だッ。俺の第六感がビンビン反応してますよ。団長、実は結構、もててるんじゃないっすか?」
ヴィル「いやぁ、そんな事、無いと思うけどなぁ」

 すると、ドワーフのギートが口を開いた。
ギート「ふ。ヴィル殿はなぁ、我が祖国、ストルヘイブにては、大モテじゃったのだぞ」
トゥセ「うう。いいなぁ、団長・・・・・・」
ヴィル「い、いやぁ、まぁ、そういう事もあったけど」
トゥセ「どうせ、その風守りの女の子も、獣魔-大戦で格好良く現れた団長に、惚(ほ)れて、今もなお、団長を待ち続けている、とか-そういうオチなんすよ。かー、やってらんないっすよ、ほんと」
ヴィル「・・・・・・トゥセ、お前の想像力は結構、すごいな」
トゥセ「あ、ども」
アーゼ「トゥセ、多分、褒(ほ)められて無いぞ・・・・・・」
トゥセ「うるせぇ、自覚させんな。しかし、団長、それ、やばいですって。絶対、俺達に協力して-くれませんよ。ガチで」
ヴィル「どうしてだ?」
トゥセ「だって、憧れのヒトを、ククリ島なんて危険な所に行くのを見過ごす事なんて、きっと出来ませんよ」
アーゼ「確かに。トゥセ、お前、彼女居ない歴が実年齢の割に、女心が分かってるかもな」
トゥセ「うっせぇ!」
ケシャ「でも、恐らく、その可能性は-ありますね。その場合、むしろ、最大の敵となる可能性すら-ありますよ」
 と、茶猫のケシャの言葉に、ヴィルは頭をかいた。
ヴィル「いや、でもさ。12年前の話だし、そもそも、すごい綺麗な子でさ、そんな子が、そんな長い間、俺を好きでいるなんて、あり得ないと思うんだよなぁ。いや、そもそも、何で俺に惚(ほ)れてる設定なんだ?」

トゥセ「分かってない。分かってませんよ、団長ッ!俺には分かります。今でも、その風守り-ちゃんは団長を待ち続けてるんですよ、きっと」
アーゼ(彼女いないのに、妙な説得力があるんだよなぁ。まぁ、俺も彼女-居ないけど)
 と、思うのだった。
カシム「何か、泣けて来ますね」
ヴィル「いや、あのさ。お前ら、考え過ぎじゃないのか?」
トゥセ「でも、団長、安心してください。万一、戦う事になっても、団長が『一緒に来てくれ、愛してる』って言ってチュウすれば、絶対、付いてきますよ」
 それに対し、茶猫のケシャも大きく頷(うなず)いていた。
ヴィル「はいはい・・・・・・。ともかく、先を進むぞ。夜の内(うち)にな」
 と、ヴィルは先導するのだった。
 すると、先に灯りが見えた。
ヴィル「止まれ・・・・・・」
 とのヴィルの言葉に、皆は立ち止まった。
ヴィル「トゥセは俺と一緒に偵察だ。他のみんなは-ここで待機しててくれ」
 との指示に全員が了解した。
 そして、ヴィルとトゥセは気配を殺し、様子を伺(うかが)いに行くのだった。
 そこには護衛民の検問(けんもん)が存在した。

 護衛民とは自治組織であり、一種の警察機構のようなモノであった。ただし、その役割は、モンスターの掃討なども-入っており、かなりの実力者も居るのだった。

 

トゥセ(うわ・・・・・・嘘だろ。あいつら、メチャクチャ、強いんじゃねぇの?ってか、マジでやばい。これ以上、近づいたら、ばれる。どんなに気配-隠しててもばれる・・・・・・)
 と、トゥセは背筋を凍らせながら思うのだった。
 そんなトゥセの心情と裏腹(うらはら)に、ヴィルは草むらから出て、護衛民に近づいていった。
トゥセ(団長ーーーーッ!)
 と、内心、叫びをあげるも、トゥセは-その場で見ている事しか出来なかった。
 護衛民もヴィルの存在に気付き、抜刀した。
 しかし、ヴィルが話しかけると、雰囲気(ふんいき)が変わり、彼らは剣を収(おさ)めた。
ヴィル「トゥセ、大丈夫だ。来ていいぞ」
 とのヴィルの言葉に、トゥセは『へ?』と、ポカンと口を開けるのだった。
 しかし、ヴィルの言うとおり、トゥセも草むらから出てきた。
 そして、ヴィルとトゥセは護衛民にテントの中へと連れられて行くのであった。

 

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