アーカーシャ・クロニクル

 第16話  放浪の皇子

 

 ミリトの決闘の宣言により、あたりは-ざわついた。
 すると、聖騎士エリーが体を震わせながら口を開いた。
エリー「ミ、ミリト様ッ。どうか、なにとぞ、それだけはおやめくださいッ!このヴィルという剣士、私はその実力を知っております。名こそ知られておらぬものの、剣聖シオン、狂戦士ロー、そう言った、勇士に準ずる程の実力を備えております。私が本気で挑んでも、恐らく、良くて相打ちが限界です」
 とのエリーの言葉に、白百合-騎士団の面々は噴(ふ)き出した。
ミリト「・・・・・・エリー。冗談も程々にしておけ。それでは、お前が剣聖や狂戦士と上手くすれば、相打ちに持ち込めるという事じゃないか。どいていろ・・・・・・」
エリー「ミ、ミリト様。そこは問題では無いのです。あの男の実力は本物です。どうか、私の言葉を信じてください」
 と、エリーは必死に哀願した。
 しかし、ミリトは-それを無視した。
ミリト「さぁ、始めよう。反逆者ヴィル」
 そう言った、ミリトは剣を構えた。
 それに対し、ヴィルも剣を抜いた。
ヴィル「・・・・・・一つ、忠告をしておこう。よく若い士官が戦場において、歴戦の副官の言う事を無視したりする。しかし、そうなると大抵は負けるんだ」
 とのヴィルの言葉に。ミリトは全身を逆立てた。
ミリト「反逆者の説教など、どれ程の価値があるかッ!」
ヴィル「敵の言葉にも、真実が含まれている事はある。だが、いいさ。そう、俺達は剣士だ。つまるところ、剣で語るしか無い」
 そして、ヴィルとミリトは魔力を剣に通すのだった。

ミリト「ハァァッ!」
 と、叫び、ミリトは一気にヴィルと距離を詰めた。
ヴィル(速いッ)
 と思うも、ヴィルは余裕でミリトに剣を合(あわ)せた。
 剣と剣が何度も打ち付けられ、火花が散った。
ヴィル(これは・・・・・・想像以上だッ。一撃、一撃は軽いが、動きが速い・・・・・・。今の俺の体調では、この動きに合(あわ)せるのは-きついな。体力が尽きないうちに、一気にたたみかけるか)
 と、一瞬で思考し、ヴィルは魔力を全開にし、剣を振った。
 ミリトは最初、余裕を見せていたが、次第に速さを増すヴィルの剣に、焦りを隠せなくなっていた。
 ミリトは耐えきれずに、とっさに後方へと跳んだ。
 その隙(すき)をヴィルは見逃さなかった。
 遠距離-用の剣技『飛燕(ひえん)』をヴィルは放つのだった。
 ミリトは何とか、飛んでくる魔力を弾(はじ)くも、体勢を崩し、地面に倒れこんだ。
 それに対し、白百合-騎士団の悲痛な声が-あがった。
トゥセ「よっしゃあ!やれッ、団長ーッ!」
 と、トッセが叫ぶと、女騎士達は非難がましい目で
トゥセをにらんだ。

トゥセ「・・・・・・なんか、俺、悪者にされてね?」
アーゼ「諦めろ、トゥセ・・・・・・」
 とのアーゼの言葉に、トゥセは肩をがっくり落とすのだった。
 一方で、ヴィルとミリトは再び、激しく剣を打ち付け合うのだった。
ミリト(いけるッ!奴は-逃亡の疲れか、体力の限界が来ているッ!このまま押し続ければッ!)
 と思い、ミリトは-さらに手数を増やした。
 その時、ヴィルが奇妙な動きをした。
 背中のマントを翻(ひるがえ)し、ミリトの視界を奪ったのだった。
 そして、ミリトはマントを貫くも、ヴィルは-いつの間にかマントを外しており、ミリトの肩に強烈な突きを放った。
 ミリトは-そのトリッキーな動きに対処できず、そのままヴィルの攻撃を喰らった。
 ミリトの体は一瞬、宙を浮き、何度も地面を転がった。
ミリト「ガッ・・・・・・」
 ミリトの肩当ては完全に砕けており、痛みでミリトは顔をしかめた。
ヴィル(浅かった・・・・・・。とっさに、後ろに避けようとしたのか。完全に捕らえたと思ったのに。聖騎士ミリトか。若いが才能は-ある。恐らく、俺なんかよりも。だが、実戦慣れしてない。それが、今回の勝敗を分けた)
 と、ヴィルは思うのだった。
ミリト「・・・・・・まだだ、まだ、私は負けていないッ!私はッ!」

 しかし、聖騎士エリーが止めに入った。
エリー「お止めください、ミリト様。貴方の負けです。ただでさえ、あの反逆者ヴィルはハンター達との戦いで消耗しているはずです。それで、あの実力なのです」
ミリト「違うッ!私が言いたいのは、そうじゃ無いッ!卑怯(ひきょう)だッ、あまりに卑怯(ひきょう)だッ!目隠しなど、騎士のなす技では無いッ!」
 とのミリトの言葉にヴィルは-ため息を吐(つ)いた。
ヴィル「戦場で-その理屈が通じるとでも?」
ミリト「クッ・・・・・・」
ヴィル「ともかく、約束は果たしてもらう」
 と言って、ヴィルは背を向けようとした。
ミリト「ふざけるなッ!何が約束だ。神聖なる騎士の決闘を汚しておきながら、どの口で-それを言う。貴様ら-だけは、絶対に許しはしないッ!」
 との言葉に、白百合-騎士団は全員、抜刀した。
エリー「ミ、ミリト様ッ」
 と、エリーは治癒魔法をミリトにかけがら言うのだった。
 しかし、完全に逆上したミリトに、エリーの言葉は届かなかった。
ミリト「総員ッ」
 と、ミリトは号令を発しようとした-その瞬間、声がかかった。
「待った!その勝負、待ったッ!」

 との透き通る声が響いた。
 ヴィル達や白百合-騎士団の面々は、その声のした方角を見た。
 そこには一人のエルフの男が駆けてきた。
エルフ「待ってくれ。その勝負」
 そのエルフの美貌(びぼう)に、白百合-騎士団は思わず、状況を忘れて見とれてしまっていた。
 一方で、ヴィルは-そのエルフの顔を見て、驚きを隠せなかった。
ヴィル「ク、クオーツ様ッ?ど、どうして-ここに」
 一方で、聖騎士エリーは体を震わせていた。
エリー「ま、まさか、あの方は、そんな・・・・・・」
 しかし、ミリトは突然の乱入者に顔をしかめるだけだった。
ミリト「ええい、何をしているッ!そいつも敵だッ!早くそいつを含め、捕らえろッ!」
 とミリトが叫んだ瞬間、ミリトの体が宙を舞った。
 あまりの事に、誰もが言葉を発せなかった。
 そこでは、聖騎士エリーが拳を握り、肩を怒りで震わせていた。
ミリト「え、エリー?」
 ミリトは腫(は)れる頬(ほお)を押さえながら、キョトンと尋ねた。

エリー「ミリト様、あ、あなたは何と言う愚かな事を。今、あなたは皇国そのものに、剣を向けようとしたのですよ・・・・・・」
ミリト「え?ど、どういう事だ」
 すると、エリーはクオーツに向けて、ひざまずいた。
エリー「数々の非礼、どうか、ご容赦(ようしゃ)ください・・・・・・。クオツェルナス皇子殿下・・・・・・」
 と、エリーは震える声で言うのだった。
トゥセ「だ、第三皇子ーー?え?団長、嘘ですよね?」
ヴィル「いや、本当だ。この方は、エストネア皇国の第三皇子で-あらせられる」
アーゼ「そ、そんな」
 皆の視線がクオーツに集まった。
 確かに、クオーツには王家-特有の気品が、かいま見えた。
そして、誰からともなく、クオーツに対し、ひざまずき出すのだった。
ミリト「そ、そんな・・・・・・どうして・・・・・・?えぇ?なんで、皇子殿下が、私達の邪魔を・・・・・・なんで?」
 と、ミリトは-ひざまずきながら、ブツブツと呟(つぶや)いた。
クオーツ「あ、あの。そんなに-かしこまらないで下(くだ)さい。もう俺は-王位の継承権は持ってないワケですし。ともかく、顔をあげて」
 と、クオーツは戸惑いながら言うのだった。
 それに対し、ヴィル達は立ち上がるのだった。

エリー「皇子殿下・・・・・・。この反逆者達とゴブリンを見逃せとの-ご命令でしょうか?」
 と、聖騎士エリーは尋ねた。
クオーツ「ええ。見逃しては頂けないでしょうか?」
エリー「ご命令とあらば」
 と言って、エリーは胸に手を当て、敬礼した。
ミリト「ま、待て、エリー。そんな。だって、私達は騎士団の命令で-ここまで来て。それなのに・・・・・・」
エリー「ミリト様。それ以上は皇族批判に当たります。貴方様-ご自身が反逆者と見られますよ」
ミリト「そ、そんな・・・・・・。ど、どうぞ、お許しください。クオツェルナス皇子殿下」
 と、ミリトは膝(ひざ)をついたまま頭を深々と下げた。
クオーツ「でも、良かった。何とか間に合ったみたいで」
ヴィル「クオーツ様。助かりました。ですが、やはり、彼女の言い分も一理あると思うのです」
クオーツ「と、言いますと?」
ヴィル「彼女、聖騎士ミリトと私は決闘をしていました。しかし、その決着は-ついていませんでした。どうか、彼女との決闘を続ける事を-お許し願いませんか?」
クオーツ「・・・・・・神聖なる騎士の決闘に、俺が口を挟む権利など-ありはしません。どうぞ。私が立会人になります」
ヴィル「ありがたき幸せ」
 と言って、ヴィルは深々と頭を下げた。

 そして、ヴィルはミリトの方を向いた。
ヴィル「さぁ、聖騎士ミリト。続きだ。決闘を続けよう」
ミリト「な・・・・・・。だ、だけど」
エリー「ミリト様。皇子殿下の立ち会いです。血を吐いてでも、立ち上がって下さい」
ミリト「う・・・・・・どうして、どうして-こんな事に・・・・・・」
 と言いながら、よろめきつつ、ミリトは立ち上がった。
 そして、ミリトは魔力をたぎらせ、殺気を放った。
ミリト「ヴィルッ!反逆者ヴィルッ!お、お前のせいだッ!お前さえ居なければッ!許さない、絶対に許さない」
 と、半泣きになりながら、ミリトは剣を構えた。
 しかし、ミリトは右肩をやられており、片手でしか剣を持てなかった。
ヴィル「さっきは卑怯な技を使って悪かったな。だから」
 そう言って、左拳で-ヴィルは自分の右肩の鎖骨を砕いた。
ヴィル「俺も片手で戦おう」
 そう言って、ヴィルは左手で剣を構えた。
ミリト「わ、私を舐(な)めるなッ!」
 ミリトは怒りを抑えるので精一杯だった。

エリー「ミリト様。立会人であられる皇子殿下の合図まで、動かないでください」
ミリト「分かってるッ!」
 と、ミリトは怒鳴(どな)った。
 すると、クオーツはヴィルに近寄った。
クオーツ「ヴィルさん、これを。質(しち)に入っていた所を、買い戻しておきました」
そう言って、クオーツはヴィルに一本の剣を渡した。
トゥセ「あ、あれは団長の剣」
 と、トゥセは口に手を当て、言うのだった。
ヴィル「皇子殿下・・・・・・よ、よろしいのでしょうか?」
クオーツ「ええ。どうか、受け取ってください。私も貴方(あなた)に恩返しをしたいのです」
 とのクオーツの言葉に、ヴィルは目を拭(ぬぐ)った。
ヴィル「ありがたく頂戴(ちょうだい)いたします・・・・・・」
 と、ヴィルは片膝を着き、申すのだった。
 それに対し、クオーツは剣をヴィルに授けるのだった。
 ヴィルは恭(うやうや)しく-それを受け取り、頭を深々と下げるのだった。
 その様子をカシムは固唾(かたず)を飲んで見守っていた。

カシム(何と言う事だ。これは、まさに一枚の名画が映(うつ)し出されているようだ・・・・・・。王と騎士の神聖なる儀式が今、行(おこな)われたのだ・・・・・・)
 と、体の震えを抑えきれぬままに思うのだった。
 そして、ヴィルは立ち上がり、ミリトの方を向き直った。
 その瞬間、ミリトはヴィルの澄(す)んだ瞳に吸いこまれたかのように錯覚した。
 しかし、ハッと気づき、ミリトは頭を振った。
ミリト(な、何だ。今のは・・・・・・今の感覚は。まるで、巨峰を前にしたような、大海に沈んだような・・・・・・。そう、わ、私は・・・・・・今、畏(おそ)れをなしてしまった。こんな反逆者にッ!)
 と思い、ミリトは唇を強く噛(か)むのだった。
 一方、ヴィルは剣を今、まさに抜こうとしていた。
ヴィル(父さん・・・・・・。力を貸してくれ・・・・・・)
 そう願い、ヴィルは目を瞑(つむ)り静かに剣を鞘(さや)から抜いた。
 次の瞬間、刀剣が露(あらわ)になり、日光を神々(こうごう)しく散らすのだった。
 ヴィルの閉じた視界では、一つの情景が見えた。
 そこには鍛冶職人の服を着た父の姿が-あった。
『ヴィル・・・・・・。俺は-お前を誇りに思うぞ。迷う事なく進め。その剣のように・・・・・・』
 との父の声が、確かにヴィルには聞こえた。
ヴィル(ありがとう・・・・・・父さん)

 そして、ヴィルは一気に刀剣を鞘(さや)から抜くのだった。
 そこには、装飾も何も無い、純粋で、真(ま)っ直(す)ぐな刀剣が存在した。
 そして、誰もが、その刀剣の美しさに息を飲んだ。
 ヴィルは左手で刀剣を構え、ミリトを見据(みす)えた。
 誰もが言葉を発(はっ)せ無かった。
 ただ、風の音のみが、響いた。
クオーツ「始めッ!」
 とのクオーツの澄(す)んだ声が響き、死合いが始まった。
 しかし、それは一瞬で終わった。
 ヴィルは一瞬でミリトに詰め寄り、剣技を放った。
 それは初級-剣技だった。
 騎士の誰もが習い、誰もが習得する剣技。
 しかし、それでいて、極めれば何処(どこ)までも深さを増す初級にして最上級とも言える剣技、『虚空斬(こくうざん)』、その技がミリトを襲った。
 ミリトは何も見えなかった。
 ただ、目の前からヴィルの存在が消えたようにしか、感じられなかった。
 そして、気付けば、ヴィルは背後におり、ミリトの剣や鎧は砕け散っていた。

 それでいて、ミリトにダメージは全く無かった。
クオーツ「攻撃の選択性・・・・・・しかし、これ程までに、武器と防具のみを破壊できるなんて・・・・・・。この技の切れ・・・・・・以前よりも増している。修羅(しゅら)の道がヴィルさんを強くした?今のヴィルさんは・・・・・・剣聖にだって届きうる・・・・・・」
 と、クオーツは呟(つぶや)くのだった。
 しかし、ヴィルの方も、体力を激しく消耗しており、
ミリト「あ・・・・・・ああ・・・・・・わ、私の負け、です」
 と言って、ミリトは大粒の涙をこぼしながら、声をふり絞(しぼ)るのだった。
トゥセ「やった・・・・・・。やったぞッ!すげー。すげーよ。なぁ、見たか?アーゼ、モロン。カシム。なぁ、みんな。俺達の団長が-あの聖騎士に勝ったんだぜ。なぁ。俺、嬉しいよ。嬉しくて-たまらねぇよ。なぁ」
 と、トゥセは涙を浮かべながら言うのだった。
アーゼ「ああ。ああ・・・・・・。そうだな。そうだな」
 と、アーゼは声を詰(つ)まらせながら答えるのだった。
モロン「団長ッ!」
 と、モロンはヴィルに駆け寄るのだった。
ヴィル「ああ。モロン。やったぞ。これで、俺達は自由だ」
 と言って、微笑(ほほえ)んだ。
ギート「だから言ったじゃろう。ヴィル殿は誠(まこと)、英雄であられると」
 と、頷(うなず)きながら言うのだった。

カシム「ヴィルさん、お疲れ様です」
 と、カシムは戻って来たヴィルに対して、言うのだった。
 さらに、茶猫のケシャ、ゴブリンのレクク、黒猫に憑(つ)いたトフクがヴィルに駆け寄った。
 一方で、聖騎士ミリトは騎士団の隊員達に囲まれ、手当(てあて)を受けていた。
ミリト「あ・・・・・・ああ・・・・・・私、私は・・・・・・」
 と、ミリトは茫然自失(ぼうぜんじしつ)となりながら-つぶやくのだった。
クオーツ「聖騎士の隊長さん、問題は-ありませんか?」
 と、クオーツはミリトに声をかけた。
ミリト「ッ・・・・・・はい」
 と、何とか答えるのだった。
 その答えを聞き、クオーツはヴィル達のもとへ行った。
クオーツ「ヴィルさん、俺もヴィルさん達の旅に同行させてください」
トゥセ「ええッ、お、皇子殿下まで、来ちゃうんですか?」
ヴィル「で、ですが・・・・・・」
 と、ヴィルは-ためらいを見せた。
 すると、聖騎士-エリーがクオーツに近づいた。

 その体からは-すさまじい闘気が発されていた。
トゥセ「う・・・・・・」
 その威圧感にトゥセは息を飲んだ。
クオーツ「どうか、なされましたか?」
 と、クオーツは平然と尋ねた。
エリー「皇子殿下。皇子殿下は、まさかと思いますが、この反逆者達と共に、ククリ島へと赴(おもむ)かれる-おつもりでは無いですよね」
 と、エリーは穏やかに尋ねた。
 しかし、その目は笑っていなかった。
クオーツ「俺は、ヴィルさんと旅を共にする予定です。それがククリ島だとしても」
エリー「そうですか・・・・・・」
 すると、エリーは大剣を抜き、クオーツに対し、構えた。
ヴィル「嘘だろ・・・・・・」
 と、ヴィルは呟(つぶや)いた。
エリー「皇子殿下。聖騎士として、貴方様を絶対に、ククリ島へだけは、赴(おもむ)かせるワケには参りません。もし、どうしても、それをなしたくば、私の屍(しかばね)を越えてお進みください」
 と、宣言するのだった。

 

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