アーカーシャ・クロニクル

第14話 白百合(しらゆり)-騎士団

 

 ヴィルは夢を見ていた。
 それは-かつての情景だった。
 騎士を目指す仲間と、笑い、泣き、共に励(はげ)んだ、そんな記憶。

 

ヴィル(ああ・・・・・・これは夢だ。夢に違いない。そうだ。この頃は、楽しかった。人生が輝いて見えた。未来に道が-あると信じていた。でも・・・・・・大人になり、現実をしり、道が閉ざされている事を知り、それでも抗(あらが)い続け・・・・・・そして・・・・・・)
 すると、ヴィルの目の前にはヒヨコ豆-団の仲間達の姿が映った。
ヴィル(それでも、お前達が居たから、俺は歩み続ける事が出来たんだ・・・・・・)
 そして、ヴィルの意識は目覚めた。

 

ヴィル「う・・・・・・」
 ヴィルは上半身を起き上がらせ、周りを見渡した。
 そこは草で出来たベッドだった。
ヴィル「・・・・・・そうか、俺は毒を受けて・・・・・・」
 すると、トゥセとアーゼが入って来た。
トゥセ「ああッ!団長―ッ!お、起きたッ!団長が目を覚ましたぞッッッ!」
 と、トゥセは叫んだ。
 そして、ドタバタと音がして、モロンやカシム達が入って来た。
モロン「団長―ッ!」
 そう言って、半泣きになりながら、モロンはヴィルに駆け寄った。
ヴィル「ごめんな、心配かけて」
 と、ヴィルはモロンの頭を撫(な)でながら言うのだった。
トゥセ「うぅ、団長ーーーッ!」
アーゼ「団長ーッ!」
 と、二人もヴィルに駆け寄るのだった。
 そして、ヴィルは少し困りながら、トゥセとアーゼの頭を撫(な)でるのだった。

 そして、トゥセ達が落ち着いたのを見計らい、ヴィルは
口を開いた。
ヴィル「俺は-どれくらい眠っていた?」
カシム「三日ほどです。それと、湯薬(とうやく)を飲んで下さい」
 そう言って、カシムは薬草で煎(せん)じた湯をヴィルに渡した。
ヴィル「ああ・・・・・・」
 そして、ヴィルは湯薬を飲むのだった。
ヴィル「苦(にが)いな・・・・・・」
カシム「ぬるま湯もあります」
ヴィル「ああ、ありがとう」
 そう言って、ヴィルは湯を飲んだ。
ヴィル「ふぅ・・・・・・。ここは古(いにしえ)の森か?」
アーゼ「はい。ツリー・フォートさん達に案内されて、古の森の奥、この安らぎの森へ着きました」
ヴィル「そうか。安らぎの森・・・・・・。懐かしいな」
トゥセ「団長。体、大丈夫ですか?どっか、痛んだりしませんか?」
ヴィル「いや。大丈夫だ。明日にでも、ここを発(た)とう。追っ手が来るかも知れない。ツリー・フォートの人達に迷惑をかけられない」

モロン「でも、団長。本当に大丈夫なの?」
ヴィル「ああ。俺を信じてくれ」
モロン「うん・・・・・・」
カシム「皆さん、ヴィルさん-の診察を行うので、一旦(いったん)、部屋から出て頂けますか?」
 とのカシムの言葉に、皆は部屋を出るのだった。
カシムは手をヴィルにかざし、あちこちの気の流れを調べだした。
ヴィル「カシム・・・・・・。どうだ?」
カシム「・・・・・・全体的に気の流れが滞(とどこお)ってます。本調子では無いのでは?」
ヴィル「お見通しか・・・・・・。だが、剣は振れそうだ」
カシム「毒の作用で関節や背が痛んでいます。あまり、無茶をなさらないで-ください」
ヴィル「ああ・・・・・・。ところで、俺は三日も寝ていたのか。その間、もしかして、カシムが世話をしてくれたのか?」
カシム「はい。私とケシャ殿で交代で」
ヴィル「ケシャさん-が?」
カシム「はい。ケシャさん-は猫からヒト型と化した時も、人間と比べると小さいですが、中々、器用にシーツや服を替(か)えていましたよ」
ヴィル「後で礼を言わないとな。ああ、カシムも-ありがとな」
カシム「いえ。昔から、病人の看病をよくしていたものでして。その経験が活(い)かされたのなら幸(さいわ)いです」

ヴィル「・・・・・・本音を言うと、明日、発つには体がキツイ。だが、せねば-ならない。一週間ほどでいい。体を動かしたい」
カシム「・・・・・・分かりました。針の療法を施してみます。ただ、これも一時的なモノです。しっかりと、休息をとらないと、体が壊れてしまいます」
ヴィル「分かってる。船に乗りこむまでだ。そしたら、ぐっすりと休んでいるよ」
カシム「ええ、そうしてください。では、針の治療の用意をして来ます。その間、トゥセさん達と話してあげてください」
ヴィル「ああ」

 

 ・・・・・・・・・・
 真夜中、ヴィルは部屋をこっそり抜け出していた。
 そして、ヴィルは剣を素振りし、その感覚を確かめていた。
 すると、ツリー・フォート(木人(きひと))のテヒシが-やって来た。
テヒシ「ヴィルよ。あまり、無茶をするな。体が壊れてはもともこうも無いのだぞ」
ヴィル「ああ・・・・・・。ただ、剣の感覚を確かめておかないと、って思ってさ。でも、もう大丈夫。最低限、勘は取り戻した」
テヒシ「そうか・・・・・・。ヴィルよ、お主は強いな」
ヴィル「いやいや。俺なんか、まだまだで、聖騎士だった頃だって、俺より強い騎士は-いくらでも居て」
テヒシ「だが、この古の森に-魔の大蛇すみついた時、それを退治できたのは、ヴィルよ、お前だけであったぞ」
ヴィル「あれは運が良かったんだ。酒好きの蛇で、助かったよ」
テヒシ「だが、いくら酔わせても、大蛇の力は強大であった。あの死闘、いまでも思い出す。我ながら、あの戦いを思い出すと、全身の管(くだ)という管(くだ)が、小気味よく震えおる」
 と言って、テヒシは嬉しそうに笑った。
ヴィル「・・・・・・なぁ、テヒシ。本当に良かったのか?俺達を一時とは言え、かくまってしまって?」
テヒシ「何を言う。森の恩人を追い返せると思うのか?」
ヴィル「ほんと、義理堅いな」
テヒシ「ヴィルよ。多くの人間やエルフやドワーフ、そう言った種族は、ワシ等(ら)、木人(きひと)を気むずかしい種族と思っておる。だが、ワシ等は-森を愛し、森に恩恵を与えるモノには、最大限の礼節を尽くすのだよ」

ヴィル「俺は森に対し、何も出来てないよ。火を使う時には薪(まき)を使うし・・・・・・」
テヒシ「フム・・・・・・。ヴィルよ。それには-あまり気にするな。ワシの親である木人は-かつて黒の女皇帝に哀願された事がある。女皇帝は泣きながら、ワシの親に頼んだ。『どうか、お願いです、国を守るため、大量の薪(まき)が必要なのです。そのために木を切り倒す事をお許しください』と」
ヴィル「それで?」
テヒシ「ワシの親は快く、女皇帝に木々を与えた。ヴィルよ。ワシらは木であって、木で無い。ただ、ワシらは森の一部ではあるのだ。だから、礼節を持って木を切り倒す分には、ワシ等は何も言わん。そもそも、ワシ等も移動する時に、木や草を踏みつぶしてしまう事も、多いしの」
 と言って、テヒシは-お茶目に笑った。
ヴィル「そっか・・・・・・。でも、テヒシの親は-じゃあ、ミズガルドに住んでいたのか?」
テヒシ「そう・・・・・・そう、その通りだ。黒の女皇帝は、我々、木人に報いてくれた。いや、木人に対してだけで無い。あらゆる少数種族を保護してくれた。だが、愚かな人間どもは彼女を・・・・・・彼女の作った理想郷を・・・・・・」
 そう言って、テヒシは怒りに体を震わせた。
ヴィル「・・・・・・なぁ、テヒシ。女皇帝の作ろうとした世界、その世界は現実に本当に出来るのかな?あらゆる種族が普通に暮らせる世界。そりゃ、異種族で戦ったりする事は-どうしたって有るだろう。でも、それでも、互いを最低限、ヒトとして認め、殺す事に罪悪感を覚える、そんな、本当は当たり前の世界が・・・・・・」
テヒシ「・・・・・・分からぬ。だが、ヴィルよ。お前のようなヒトが増えれば、それも可能では無いのか?」
ヴィル「賛同者は全然、居ないけどな」
テヒシ「ヴィルよ。正しさとは中々に受け入れられぬモノなのだ。特に-それが世界の常識と-かけ離れていた場合は特にな」
ヴィル「かもな・・・・・・」
テヒシ「今は耐えるのだ。種をまいても、芽吹きには時間がかかる。花が咲くのは、さらにだ。ただ、ただ・・・・・・その時を待つのだ」
ヴィル「その時・・・・・・」
テヒシ「ヴィルよ。もう、部屋に戻れ。大分(だいぶ)、冷えてきた。肩を冷やしては良くない」

ヴィル「そうだな。ありがとう、テヒシ」 
テヒシ「気にするな。友よ」
 と言って、テヒシはニッコリと微笑(ほほえ)むのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 白百合-騎士団の隊長であるミリトは夢を見ていた。
 そこでは、ミリトは聖騎士の面々の前で、必死に意見を述べていた。
ミリト「故に私は、女性を中心にした新たな騎士団の創設を提唱します」
 と、ミリトは言うのだった。
 それに対し、多くの聖騎士が賛同した。
聖騎士A「まぁ、悪くも無かろう。女性で魔力を持つ者も多い。それを人材として活用するのは正しいであろう」
聖騎士B「元老院も女性の議員を増やすように努力をしておるしな。騎士団だけが-その流れを無視するワケにもいくまいて」
 すると、聖騎士ローが挙手した。
ロー「私は反対です。確かに、その理念は納得が行きますし、いずれ必ず行(おこな)わねば-ならない事でしょう。しかし、現状で行(おこな)っても、ロクな結果には-ならないと思われます」
 すると、老将軍ダンファンが口を開いた。
ダンファン「何故そう思う、聖騎士ローよ?」
ロー「心構えの問題です。ここに記(しる)されている資料では、その騎士団の人員として、ミリトさん、君の子飼いの部下達を登用したいとの事だが、これは-いかがなモノかと」
 それに対し、ミリトは毅然(きぜん)と反論した。
ミリト「しかし、聖騎士ロー。彼女らの実力は私が保障します。もし、お疑いならば、何かしらの試験を行って頂きたい」
ロー「・・・・・・試験では計れない強さも-あるんだよ、ミリトさん」

 とのローの言葉に、ミリトは唇を噛(か)んだ。

 

 会議は終了し、ミリトはローのもとに詰め寄った。
ミリト「聖騎士ロー。どうして、反対なされるのですか?どうして」
ロー「別に私は-いじわるで、あんな事を言ったワケじゃないよ。ただね、考えて見て欲しい。聖騎士とは国を守る為(ため)に命を捧げるのだ。その意味を」
ミリト「私を含め、彼女らも、その覚悟を十二分に持っております」
ロー「口だけなら何とでも言える。しかし、そもそも何故、君は女性の騎士団を創設したいと思うんだね?」
ミリト「それは、女性の社会的な地位が未だ、低くあるからです。現に騎士団では女性の数は限られているでは無いですか」
ロー「しかし、だね。君の乳母である聖騎士エリーのように、優秀な女性は-きちんと採用されているのだよ」
ミリト「ですが、それにしても少なすぎます。それに、エリーはコネで採用されたと聞きますが」
ロー「・・・・・・ミリトさん、本気で-そう言っているなら、君の目は節穴(ふしあな)だね。むしろ、私としては、君の方を聖騎士と呼ぶのに-ためらいがあるよ」
ミリト「なっ・・・・・・」
ロー「私はね、男女の差別が-あってはいけないと思っている。だからこそ、女性の優先枠を作るのでは無く、完全な実力主義で騎士は登用されるべきだと思っている。しかしだね。君は知らないだろうが、騎士の実技での女性の合格者の割合は、確かに、非常に少ない。しかし、2次試験である面接に合格する女性の割合はね、その数倍はあるんだよ」
ミリト「どういう事でしょう?」
ロー「つまり、面接において、女性は圧倒的に優遇されているんだよ。分かるかい。一般職は別にして、騎士や官僚といった職業においては、女性は簡単に試験を通る事が出来る。しかし、現状、確かに、女性で上の立場にいる者は少ない。何故か。それは甘えがあるんじゃないかな?」
ミリト「甘え・・・・・・?」
ロー「つまり、騎士において言うなら、一生を剣の道に捧げる覚悟が-あるかと言う事だ。男性の騎士志望は、幼い頃より-それだけのために生きてきた。しかし、君の部隊の女性達は-どうだ?一生を剣に捧げる覚悟で生きてきたか?そして、これからも生きていく覚悟があるのか?」
ミリト「と、当然ですッ!私は現に人生の大部分を剣に費やして来ましたッ」

ロー「だが、君以外の面々はどうだ?一度、君の子飼いの部隊を見た事があるよ。ずいぶんと、キャピキャピしていたね。それで、将来は聖騎士の誰かと結婚したいとか、言っていたのを耳にしたよ。私はね、妊娠し、子育てする期間を一時的に休職するのは問題ないと思っている。むしろ、その経験は剣技においても役だったりするだろう」
 と言って、ローは言葉を区切った。
ロー「しかしだね。その後、騎士を辞めて、主婦になられたんじゃ、こちらも困るんだよ。騎士団は男を漁(あさ)る場所じゃ無い。第一、騎士を育成するのにも-かなりの金が必要なんだ。だからこそ、騎士に甘い気持ちでなられても困るんだ。それに・・・・・・」
ミリト「なんです?」
ロー「君達は弱いよ。非常にね」
 とのローの言葉にミリトは怒りを抑えるので精一杯だった。
ミリト「確かに・・・・・・私達は弱いかも知れません。狂戦士ローと呼ばれる貴方(あなた)からしてみると。しかし、私達は懸命に鍛錬を積んで来ました。第一、女性の方が男性より肉体的に不利なワケで」
 とまで言って、ミリトは言葉を止めた。
 今、ローは悲しげな目でミリトを見ていた。
ロー「それを言ってしまったらお終いだよ、ミリトさん。それは魔力を持たないヒトの話だ。確かに、筋肉の量は女性より男性の方が多いだろう。しかし、魔力の量は女性の方が男性より多いワケで。現に、多くの女性の剣士、騎士は居る。かの黒の女皇帝シャーリアも世界最高の剣士と称されたワケで」
ミリト「わ、私は・・・・・・黒の女皇帝シャーリアに幼少の頃より憧れていて・・・・・・」
ロー「女皇帝は悲しいまでに男女に差別はしなかった-と言われる。女性の騎士団を彼女は創設したが、その女性の騎士達は、皆、体格が良く、筋骨隆々(りゅうりゅう)で非常にたくましく、頼もしかったとされる。そう、君の乳母(うば)の聖騎士エリーのようにね」
ミリト「そ、それは・・・・・・」
ロー「戦場で魔力切れを起こしたらどうする?その時、仲間が死にかけていて、脱出せねば-ならなかったら?重装備の上に、仲間を背負って脱出する筋力は最低限、必要なのでは無いか?君の子飼いの娘達に-それが出来るのかい?見たところ、細身ばかりだったけど別に見た目が細身でも、実は力が強ければ問題は無いが。剣聖シオンのギルドに居る元-聖騎士のエレナのようにね」
ミリト「・・・・・・ッ、確かに、今の彼女らは弱いかもしれません。ですが、いずれ必ず、鍛え上げた姿をお見せいたします。必ずッ」
 と、ミリトは瞳に闘志の炎を燃やしながら答えるのだった。

 それをローは困った顔で見ていたのだった。

 

 ミリトは目を覚ました。
 そこはテントの中だった。
ミリト「さぁ・・・・・・追跡の開始だ。見ていろ、聖騎士-ロー」
 と、低く呟(つぶや)くのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
トゥセ「ウオオオオオッ」
 と叫び、トゥセは起き上がるのだった。
アーゼ「ど、どうしたトゥセ?」
トゥセ「や、やべぇ、悪夢を見ちまったぜ・・・・・・」
アーゼ「あ、そう・・・・・・まだ早いから寝るな。お休み」
トゥセ「待ってくれよアーゼ。俺の悪夢を聞いてくれよ」
アーゼ「・・・・・・簡潔にな」
トゥセ「あ、ああ・・・・・・。最初、それは素晴らしい夢かと思ったんだ。人間の女の子と追いかけっこして遊んでたんだ、俺が。『待ってー』とか言われちゃってさ」
アーゼ「あ、そう」
トゥセ「だ、だがな、しばらくすると様子が変わりだした。その女の子が完全武装して、剣を片手に『待てー』とやり出した。しかも、何か、女の子の人数が急に増えだして、俺を捕まえようとするんだ」
アーゼ「ふーん」
トゥセ「その上、反撃しようとすると、『いやーん、止めてー』とか言って、奴ら泣き出すんだ。どうしろって言うんだよ・・・・・・」
アーゼ「さぁなぁ。まぁ、でも、女の子に囲まれて良かったじゃないか」
トゥセ「お、お前なぁ。この悪夢は-ただごとじゃ無いぜ。きっと、何か嫌な事が起きるに違いない。だから、アーゼ、お互い用心しよう・・・・・・って、寝るなー」
 しかし、アーゼは完全に熟睡しており、トゥセの話を無視していた。

 

 そんな中、白百合-騎士団は着々とヴィル達のもとへと近づいて来ているのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 一人の若く壮麗(そうれい)なエルフの剣士が地図を片手に、森を歩いていた。
 彼こそは、ヴィルの剣を質屋(しちや)で買ったクオーツであった。
クオーツ「うん・・・・・・かなり近づいている感じだ。早く、ヴィルさんに-この剣を渡さないとな」
 そう言って、クオーツは再び歩き出すのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 

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