アーカーシャ・クロニクル

 第13話 ゴブリンの姫

 

 獣使いのハンター、クエルトはトゥセに手を差しのばした。
 それに対し、あまりの事に、トゥセは-あっけに取られ、何も反応できなかった。
 そして、少しの沈黙が降りた。
 しかし、その沈黙を斬り裂いたのは、トゥセでもクエルトでも無かった。
 クエルトの首元に、かぎ爪が突きつけられていた。
包帯「おい、クエルト、お前は、いつから-勝手に色々と決めれる程に、偉くなったんだ?」
 と、包帯の男は、仲間であるクエルトに対し、かぎ爪を突きつけ、言うのだった。
 それに対し、クエルトは両手を挙げて、口を開いた。
クエルト「サギオスさん。私はスカウトも担当してるんですよ。これは、あくまで職権の範囲です」
 と、クエルトは包帯の男-サギオスに対し答えた。
サギオス「どうだかな・・・・・・。どうも、テメェは信用ならねぇ」
クエルト「それは残念です。信用してくださるよう、努力します」
サギオス「なら、黙って見てな」
クエルト「では、とりあえず」
 そして、サギオスはトゥセ達に-かぎ爪を向けた。
サギオス「ボスは皆殺しと言った。なら、それが全てだ。死ねよ、虫ケラどもが」

 そう言って、サギオスは魔力を高めた。
 それに対し、トゥセ達も魔力を高めるのだった。
 その時、サギオスの視線が上方を向いた。
サギオス「ありえねぇ・・・・・・」
 そのサギオスの言葉で、クエルトも-それに気付いた。
クエルト「サギオスさん・・・・・・」
サギオス「分かってる・・・・・・。依頼人の命令は絶対だ」
 と、サギオスは忌々(いまいま)しげに言うのだった。
 一方。カシムは気になって、サギオスの見た方向に目をやった。
そこでは遠く-山の向こうから、煙が-あがっていた。
カシム(あれは、色が付いている?普通の煙じゃ無い。つまり、のろし-か何かか?だとすると、彼らに対し、撤退の命令を告げる-のろし-でも発されたという事か?)
 と、カシムは推理した。
サギオス「・・・・・・撤退だ。異論は-ねぇな?」
クエルト「ええ」
 そして、クエルトは新たな大ガラスを呼び、乗りこんだ。
サギオス「てめぇら・・・・・・俺は-てめぇらの顔を忘れねぇ。月の無い夜には気を付けな」

 と、サギオスは目をぎらつかせながら、言い放つのだった。
クエルト「ダーク・エルフのカード使いさん。私は-いつでも、あなたを心待ちにして居ますよ。あなたは-いずれ、必ず、私のもとへ来る・・・・・・。そんな気がするのです」
 すると、少女アリスが口を開いた。
アリス「じゃあね、ダーク・エルフの-お兄ちゃん。また、遊ぼうね」
クエルト「では、これにて・・・・・・」
 そして、クエルト達は、大ガラスを駆(か)り、空へと飛翔(ひしょう)していった。
 それをトゥセ達はポカンと見ている事しか出来なかった。
トゥセ「た、助かったのか?」
アーゼ「トゥ、トゥセ。お前・・・・・・モテモテだな」
 とのアーゼの言葉に、トゥセは身震いした。
トゥセ「や、止めてくれ・・・・・・。あんな奴ら-にモテたくねぇ。男にもロリにも興味ねぇよ・・・・・・」
カシム「それより、ヴィルさんは・・・・・・」
 その時、遠くでは、いまだ、魔力同士の激しい-ぶつかり合いが見て取れるのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 木人(きびと)テヒシと-ヴィルは、ハンターのボスであるファントムとさらなる激しい死闘を繰り広げていた。
 ファントムは火炎の中級魔法を木人テヒシに放った。
ファントム『燃えろ、燃えろッ!フハハッ!』
 しかし、テヒシは魔力を全開にし、炎をかき消した。。
ファントム「チィッ!」
 そして、ファントムはテヒシに近寄ろうとするも、ヴィルが立ちはだかり、剣を振るってきた。
 ヴィルとファントムは高速で移動しながら、剣技を発動していった。
 しかし、斬れるのは互いに残像だけで、共に-かすりもしなかった。
 とはいえ、だんだんとファントムは追い詰められ、一気に、後方へと下がった。
ファントム『ハハッ。舞い踊れ、鉄鎖(てっさ)の茨(いばら)よッ!』
 と、ファントムが叫ぶや、地中から鉄で出来た茨(いばら)が出現し、次々と枝分(えだわ)かれして、ヴィル達を襲った。
 木人テヒシは右腕を犠牲にして、鉄の茨(いばら)を防御した。
 しかし、茨(いばら)はテヒシの体内へと侵入し、肩の方まで昇(のぼ)っていった。
 一方、ヴィルは剣技を発動し、テヒシに食いこむ茨(いばら)を切断した。
テヒシ『すまぬッ・・・・・・』

ヴィル「ああ。それよりッ!」
 そう言いかけ、ヴィルはファントムの次なる魔法を避けていった。
 そして、ヴィルとファントムは一瞬で、剣を何度も打ち合った。
 しかし、純粋な剣技ではヴィルに分(ぶ)があり、ファントムはたまらず、大きく跳躍(ちょうやく)して避けた。
 その隙(すき)をテヒシは見逃さず、巨大な拳をファントムに向けて放った。
 しかし、ファントムは器用に-それをかわし、それどころか、そのまま、テヒシの体を伝(つた)い、テヒシの顔面まで一瞬で、登っていった。
 ファントムは狂った笑みを浮かべ、テヒシの眼に剣を突き立てようとした。
 しかし、次の瞬間、ヴィルの投げナイフがファントムを襲い、ファントムは仕方なしに-それらを弾(はじ)いた。
 さらに、ヴィルは遠距離用の剣技『飛燕(ひえん)』を構築し、ファントムに魔力の斬撃を放った。
 この鋭(するど)い一閃(いっせん)には、さしものファントムも避けるしか無く、
ファントムはテヒシの体から離れ-地面へ降り立つのだった。
 すると、ファントムは笑い出した。
ファントム「ハハッ!楽しいなぁ、フハッ!僕をこれ程、楽しませてくれるとは、ヴィルッ!なる程、ヴィル。お前がドワーフどもの国や辺境で-そう呼ばれて居るのも分かる。フフッ。『無名の英雄』と呼ばれているのもッ!」
 すると、指笛が上空から聞こえた。
 それを聞き、ファントムは周囲を見渡した。
ファントム「これは・・・・・・。チッ、撤収のノロシか・・・・・・」

 と、ファントムは遠く、山の向こうから昇る煙を見て呟(つぶや)いた。
ファントム「残念だが、カーニバルの時間は終わりだ。だが、ヴィル、お前は僕にとり、最高のオモチャだ。いずれ、再び、戦う事もあるだろうさ。それを・・・・・・楽しみにしているよ」
 と言って、ファントムは大きく跳躍(ちょうやく)した。
 それを大ガラスが-さらっていき、ファントムの姿は-すぐに見えなくなった。
ヴィル「・・・・・・終わったのか・・・・・・?みんな・・・・・・は」
 すると、ヴィルは視界が歪(ゆが)むのを感じた。
 ヴィルの全身は猛毒(もうどく)により、ひどく熱くなっていた。
 そして、ヴィルの意識は白く染まっていった。

 

 

 ・・・・・・・・・・
 話は三日前に遡(さかのぼ)る。
 ゴブリンのレクク達の居た古代迷宮では、魔導士達による調査が行(おこな)われていた。
 また、その護衛として、聖騎士の中隊も派遣(はけん)されており、大がかりな調査となっていた。
 すると、一人の魔導士が隠し部屋に置いてあった布を見て、血相を変えた。
 彼は上司である上級-魔導士へと、急ぎ報告に行った。
「ドルフェ様、これを・・・・・・」
 と言って、魔導士は上級-魔導士へと布を見せた。
 それを上級-魔導士ドルフェは-じっくりと読みこみ、目を大きく見開いた。
ドルフェ「これは・・・・・・。何と言う事だ・・・・・・。いかん、急ぎ、ハンター達を止めねば。これは、場合によっては、ククリ島への侵攻に戦略的な意味をもたらす-やもしれん」
 その-やり取りを端(はた)で聞いていた聖騎士が口を開いた。
聖騎士「どうなされた?ドルフェ殿」
ドルフェ「この布を見てくだされ。ここには、ゴブリンの言語で-こう書かれておるのです。『勇者カル・ヘトと、センルの王-ヤン・ファトの永遠の友情を示す』と」
聖騎士「ヤン・ファトとは、十年前の獣魔-大戦にて、この大陸で死んだゴブリンの王の名前でしたな」
ドルフェ「ええ。そして、勇者カル・ヘトとは、獣魔-大戦にこそ参加しなかったものの、ククリ島いちの力を持つ戦士と呼ばれて居ます。その二人の友情の証の布が、ここに-あったのです」
聖騎士「どういう事か、ドルフェ殿?」

ドルフェ「つまり、この布を持つと言う事は、そのゴブリンはセンル族の王であるヤン・ファトの血をひいた者である可能性が高いのです。何故、この大陸に居るのかは分かりませぬが、恐らく、逃げ遅れたのやもしれませぬ」
聖騎士「・・・・・・そう言えば、獣魔-大戦のおり、ゴブリンの王に子供が出来た、という話を聞いた事があります。そして、確かに、それから一週間、ゴブリン達は攻めて来ず、斥候(せっこう)の報告では宴(うたげ)を開いていた、と」
ドルフェ「ハンターを急ぎ、止めねばなりませぬ・・・・・・。もし、逃げたゴブリンが王の血をひいているならば、ククリ島-侵攻の際に、人質として、多いに役立つやも知れませぬ」
聖騎士「確かに・・・・・・。急ぎ、ハンター達を止めるよう、要請します。おいッ、紙とペンを」
 と、聖騎士は従士(じゅうし)に命じるのだった。

 

 そして、結果、ハンター達は任務を途中で解かれたのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 その頃、聖騎士達は会合を開いていた。
聖騎士A「しかし、ハンター達の報告では、ゴブリンや反逆者と接触を果たしていたそうでは無いか。ハンター達を引き上げさせるのでは無く、任務を捕獲に変更すべき-だったのでは?」
聖騎士B「いや、しかし、ハンターどもを信用し過ぎるのもどうかと思うがな。捕獲の際(さい)に、暴れられたから-など言って、ゴブリンの死体を持ち帰られたら、たまらぬ」
聖騎士A「しかし、なら、誰を捕獲に回す。ククリ島への侵攻の準備で相当の人員が-そちらへと割(さ)かれている。
騎士団として動かせる人員は限られて居るぞ」
 すると、一人の聖騎士が手を軽く挙げた。
聖騎士B「これは聖騎士-ロー。いかが-なされた?」
ロー「いえ、適任が居ると思いまして。白百合(しらゆり)-騎士団など、どうでしょう。ちょうど、位置も近いですし」
聖騎士A「確かに・・・・・・あの小娘達なら、適任やもしれませぬな」
聖騎士B「彼女らをククリ島へと連れて行くワケにもいきませぬからなぁ。ゴブリンに犯され、ゴブリンの子供をはらみでもしたら、大変どころの騒ぎでは無い。特に彼女ら-の多くは貴族ですからな。余計に問題が-あっては困る」
ロー「その意味で、今回の任務は良いのではないでしょうか?」
 すると、威厳のある-老人の聖騎士が口を開いた。
 彼こそ、獣魔-大戦の英雄である老将軍ダンファンであった。
ダンファン「うむ、聖騎士ローの案で行(ゆ)こう。彼女ら-は若いが腕も確かだ。それに一個中隊であたれば、問題はあるまい」
 とのダンファンの言葉に、皆は頷(うなず)いた。

 

 ・・・・・・・・・・
 そして、白百合-騎士団に急ぎ、伝令が放たれた。
 一方で、ダンファンはローと私室で話をしていた。
 二人は椅子に腰掛け、酒を酌(く)み交(かわ)わしていた。
ダンファン「ローよ。本当は-お前自身が捕獲(ほかく)の任に就(つ)きたかったのでは無いか?」
ロー「・・・・・・いえ、むしろ、私は彼らとは戦いたくないですね」
ダンファン「そうか・・・・・・。しかし、ヴィルは-剣の院にて-お前と同期であった・・・・・・」
ロー「ええ。彼は信用できる男です。正直、今回の件も、何か理由が-あったとしか」
ダンファン「・・・・・・ローよ。ワシにはヴィルの気持ちが分かる気がするよ」
ロー「と、言いますと?」
ダンファン「あやつは優しすぎるのだ。だから、恐らく、ゴブリンを殺せなかったのだ。話に聞けば、そのゴブリンは少女だと言うでは無いか」
ロー「・・・・・・ええ。さらに、傭兵ギルドのメンバーや剣聖シオンからの話では、ゴブリンの少女を守るために、ククリ島へ行くと・・・・・・。正直、冗談か何かかと思いましたが、やはり、本気なのでしょうね」
ダンファン「あやつは-そういう男だ。あまりに純粋でそれ故、騎士団を去る事となった。だが、歳(とし)をとると-思うかな。あやつのように生きてみたかったと」
ロー「・・・・・・私もです。しかし、誰かが、この鎖に繋がれ、束縛された騎士団にて戦わねばならない」
ダンファン「そうだ・・・・・・。我々は皇国(おうこく)の剣なのだからな」
 と言って、ダンファンは酒をあおるのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 白百合(しらゆり)-騎士団は貴族の娘達で構成された小部隊であった。
 その特性上、彼女らは危険な任務に就く事は無く、騎士達からは貴族の道楽くらいにしか思われていなかった。
 しかし、その団長であり、中隊長であるミリトは、必死に部隊を鍛え上げていた。
 ミリトは自身も人一倍、努力をし、他の隊員の誰よりも-早く起き、稽古(けいこ)をし、誰よりも遅くまで処務(しょむ)をこなしているものだった。
 そんな彼女のもとに伝令の早馬が来た。
 そして、受け取った書状を読み、目の色を変えた。
ミリト「急ぎ支度(したく)をしろッ!急(きゅう)の任務だッ!さぁ、何をもたもた-している。そんな事では、戦場で奇襲を受けた時、対処できないぞッ!」
 と、叫ぶのだった。
ミリト(・・・・・・ようやく、私達の部隊の実力を示せる機会が来た。見せてやる、私達の実力を。いつも、いつも、私達を女性だからと馬鹿にしてきた、中央の連中に。そして・・・・・・あの聖騎士ローにッ)
 と、心に誓うのだった。
 今、白銀の鎧を着た乙女達が、ヴィル達を追う事となるの
だった。

 

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