アーカーシャ・クロニクル

 第8話  始動

 

 剣聖シオンは冷えこんだ早朝の中、雑念を払うように素振りを繰り返して居た。
 すると、パーティの一人の大男が-やって来た。
大男「せいが出るな」
 その言葉を聞き、シオンは木刀を降ろすのだった。

 

 二人は旅館のラウンジに腰かけていた。
 未だ朝は早く、シオン達-以外は周囲に誰も居なかった。
シオン「・・・・・・実は相談したい事があるんだ」
大男「珍しいな。どうした?」
シオン「実は・・・・・・」
 そして、シオンは夢の内容を話し出した。
シオン「というワケなんだ。どう思う?」
大男「どう思うも何も、お前は実際には-浮気も何もしてないワケだろう?」
シオン「当たり前だ」
大男「なら、問題ないだろう。まぁ、英雄-色を好むとは言うが、俺としては-お前に浮気はして欲しく無いぞ。パーティがぎくしゃく-するだろうし、何よりエレナが悲しむだろう」
シオン「分かってるよ」
大男「なら、問題ないだろう?」
シオン「ああ・・・・・・」
大男「どうした?やけに歯切れが悪いな」
シオン「いや、あの夢は俺の願望だったんじゃないかって」
大男「・・・・・・シオン。お前、エレナと付き合って何年になる?」

シオン「大戦の直後だからな、丁度、十年だ」
大男「そうか。なら、一種の倦怠期(けんたいき)なのかもな。お前達も」
シオン「倦怠期(けんたいき)か。確かに、付き合い始めたばかりと-同じとは言えないな」
大男「結婚すれば誰でも嫌でも通る道さ、恐らくは。ただ、そこで我慢できず浮気するか、踏みとどまるか、そこで、人生は大きく変わるだろうな」
シオン「ああ・・・・・・」
大男「しかし、まぁ、お前の気持ちも分かるさ。浮気をしない男も居るが、それは基本、もてないからだ。つまり、チャンスが無いから浮気をしない。逆に言えば、美人で性格も良くて、趣味も合って、しかも若い、そんな女性から、アプローチをかけられたら、大抵の妻帯者は墜ちるだろうな」
シオン「そんなモノか?」
大男「もちろん、だからと言って、許されるモノでは無い。だが、人は弱いのも-また事実だ。そう、人は弱い。万が一、お前が浮気をしても、単純に責める事は出来ないさ。ただな、シオン。そこで、自分のした過(あやま)ちを見返れるかどうかで、運命は分岐すると思うぞ」
シオン「見返る・・・・・・」
大男「そうだ。何の罪悪感も無く浮気を続けるのと、罪悪感を持ってるのでは、意味が大きく違う。もっとも、お前の場合は、そもそも浮気なんてしないだろうがな」
シオン「ああ・・・・・・」
大男「まぁ、あまり気にするな。良い夢を見た、くらいに思っておけば-いいんじゃ無いか?」
シオン「ハハ・・・・・・そうだな」
大男「むしろ、ウチの女性陣との-そういった夢を見れるなんて、うらやましい限りだぞ」
 と言って、大男も笑うのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
トゥセ「うおおおおおおッッッ」
 と、言って、トゥセは飛び起きた。
アーゼ「何だよ、いきなり」
トゥセ「あれ?夢か?」
 と言って、トゥセは辺りをキョロキョロ見回した。
アーゼ「朝だよ。お前、ぐっすり寝てたから、起こさないでおいたんだ。他の皆は全員、起きてるぞ」
トゥセ「そ、そうか・・・・・・なぁ、アーゼ。俺は怖ろしい夢を見てしまった」
アーゼ「な、何だよ、それ」
トゥセ「い、いや。やっぱり、何でも無い・・・・・・」
アーゼ「何だよ、気になるなぁ」
トゥセ「いや・・・・・・本当にやばい夢だったんだ・・・・・・」
アーゼ「それで?」
トゥセ「それだけ・・・・・・」
アーゼ「いやいや、そこまで言ったなら-ちゃんと話せよ」
トゥセ「クゥ、聞いて後悔するなよ」

アーゼ「ああ」
トゥセ「じ、実は・・・・・・」
アーゼ「実は?」
 そんな二人の-やり取りをヴィルやカシムも何となく気になって聞き耳を立てていた。
トゥセ「正直、すごく-おぞましい夢なんだが、それがさ、何か、ウチのパーティの男連中がな・・・・・・、いや、ほとんど男しか居ないが・・・・・・」
アーゼ「いいから早く言えよ」
トゥセ「・・・・・・つまり、お前とか団長とかカシムが裸で、俺も裸で、それで何か、色々と-やってる夢だったんだ。って、アーゼ」
 アーゼは冷や汗をかきながら、トゥセと少し距離を置いた。
トゥセ「お、おい、アーゼ?」
アーゼ「トゥセ、お前、そんな趣味が・・・・・・」
トゥセ「違う、違うッ、馬鹿ッ!俺には-そんな趣味はねぇッ!おい、止めろ、そんな怯(おび)えた目で俺を見るのは。おい」
 そう言って、トゥセはアーゼに手を伸ばすも、アーゼは
後ずさって、それを避けるのだった。
トゥセ「うぅ、団長ーーーッ!」
 そう言って、トゥセはヴィルに助けを求めるも、ヴィルも
とっさに一歩、下がった。

トゥセ「モ、モロン?お前なら分(わ)かって・・・・・・」
 しかし、モロンはヴィルの背に隠れていた。
トゥセ「カ、カシム?」
 そう言って、トゥセはカシムの方を向くも、カシムは目を
逸(そ)らしてしまった。
トゥセ「う、うう・・・・・・」
 そして、トゥセはジリジリとヴィル達に近づいて来た。
 一方、ヴィル達も、ジリジリと後退を開始していた。
 そんな中、ゴブリンの少女レククはキョトンとしており、その横で黒猫は安らかに眠っていた。
トゥセ「う、うわーーーーーんッ!」
 そう叫び、トゥセはヴィル達を追いかけた。
 それに対し、ヴィル達は条件反射-的に逃げ出すのだった。
 そして、ゴブリンの少女レククを中心に、トゥセとヴィル達は駆け回るのだった。
 その様子をレククは首を回して見ているのだったが、目が回ってしまい、クラクラしていた。
 そんな中、黒猫は我関せずと言った具合に、あくびをするのであった。

 

 しばらくの追いかけっこの後、ヴィルはトゥセを慰(なぐさ)めていた。
ヴィル「まぁ、トゥセ。俺としては-お前がどうような趣味嗜好(しこう)をしていたも仲間だと思ってるぞ。だから、あんまり気にするな。ただ、俺には-そっちの趣味もないからな。一応、断っておくと」
トゥセ「団長ー、だから、誤解ですって。お、俺も、女の子とエロい事してる夢、見たかったですー」
アーゼ「しかし、重症だなぁ。女の子を夢で想像する事すら出来ないから、代わりに男が夢に出て来るなんて」
トゥセ「止めろッ!それ以上、何も言わんでくれッ!」
カシム「ま、まぁまぁ、トゥセさん、きっと良い事ありますよ」
トゥセ「おう。ありがとな、カシム」
モロン「トゥセ、元気出して」
トゥセ「おう・・・・・・。よし、元気だそう・・・・・・。うん。きっと、明日は女の子の夢、見れるよな?」
アーゼ「トゥセ・・・・・・自分で言ってて-悲しくならないか?」
トゥセ「うるせぇッ!自覚させんなよッ」
 と言って、トゥセは自らの頭を掻(か)きむしるのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
その頃、ダーク・エルフの女性フォウンは宿屋で目を覚ました。
フォウン「ん・・・・・・」
 と、艶(なま)めかしい声をあげ、フォウンは起き上がった。
フォウン(あれ・・・・・・私、いつの間に眠って・・・・・・?昨日は確か、シオンに逃げられちゃった後、寂しくて、誰か男をあさろうと思ったけど、面倒で。結局、旅館に戻って、自分で慰(なぐさ)めて寝ちゃったのね)
 と、フォウンはボンヤリと思うのだった。
フォウン(でも、良い夢-見たわね。シオンとやってる夢なんて、見たの初めてじゃないかしら?しかも、後半の夢なんて、大きくなったフィナまで出てきて、シオンと3Pしちゃってたもんね。とんだ親子丼だわ・・・・・・)
 そう思い、ため息を吐(つ)くのだった。
フォウン「さて、そろそろ起きて、顔の手入れをしないとね」
 そう呟き、フォウンはベッドを降りるのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
しばらくして、シオン達は宿で朝食をとっていた。
 すると、扉が開き、壮麗(そうれい)なエルフの男が入って来た。
 その姿には男女問わず、思わず見とれてしまう程だった。
 そんな中、シオンは思わず口を開いた。
シオン「ク、クオーツ様?」
クオーツ「シオンさん?」
 と、そのエルフは答えるのだった。

 

シオン「いや、ですが、お久しぶりです、クオーツ様」
クオーツ「こちらこそ。それとシオンさん、あまり堅苦しいのは抜きで。剣聖に敬語を使われると困ります」
シオン「ですが・・・・・・。分かりました。じゃあ、クオーツ、どうして-ここに?」
クオーツ「偶然です。旅をしていまして、それで、シオンさんが居ると噂を聞き」
シオン「そうか・・・・・・これも何かの導きかな・・・・・・」
クオーツ「ところで、質屋(しちや)で-こんなモノを見つけたんですが」
 そう言って、クオーツは一本の剣を見せた。
シオン「それは・・・・・・ヴィル先輩の剣じゃないか」
クオーツ「そう思って、買っておきました。ヴィルさん-もよっぽど生活に困っていたんですかね?」
シオン「かもな・・・・・・」
 とシオンは暗い顔で答えた。
クオーツ「ところで、街の噂(うわさ)では、ヴィルさん-が反逆者になってしまったとか・・・・・・」
シオン「・・・・・・ああ。それは間違い無い。ゴブリンを助けたんだ、あの人は。この目で見た」
クオーツ「そうですか・・・・・・」
 そう言って、クオーツは立ち上がった。
シオン「まさか、追うのか?」

クオーツ「ええ。放っては-おけません」
シオン「で、ですが、あなたはッ。あなた様は・・・・・・」
クオーツ「大丈夫です。無茶はしませんから。シオンさん、お会い出来て嬉しかったです」
 そう言い残し、クオーツは風のように去って行くのだった。
 後に残された者は-初(はじ)めポカンとしていたが、すぐに話し出した。
大男「シオン、さっきの人は誰なんだ?」
シオン「・・・・・・貴族の-ご子息(しそく)さ。家を継がずに、放浪なされているんだ」
細身「なる程。いやぁ、どうりで綺麗なワケや。いや、あんな
   綺麗な男の人は見た事ないわぁ」
 と言って、細身の男は何度も頷(うなず)いた。
フォウン「フフ、かっこよさではシオンも負けて無いけどね」
 と、ダーク・エルフのフォウンは言うのだった。
リーシャ「あ、それは私も-そう思います。シオンさん-の方(ほう)が男らしくて素敵だと思いますよ」
 と、治癒(ちゆ)術士のリーシャも賛同するのだった。
シオン「あ、ありがとう・・・・・・。しかし・・・・・・」
 そして、シオンは黙りこんだ。

シオン(俺は・・・・・・間違った選択をしてしまったのか?)
 と、シオンは答えの出ない問いを考え続けるのであった。

 

 ・・・・・・・・・・
 シオンはパーティの一人、女-魔導士ユークの部屋を訪れていた。
ユーク「シオン。何の用?」
 と、ユークは尋ねた。
シオン「・・・・・・実は占って欲しいんだ。俺達の未来を」
 とのシオンの言葉に、ユークは少し押し黙った。
ユーク「・・・・・・未来予知をして欲しいという事?」
シオン「まぁ、端的に言えば。以前、出来ると言って無かったか?」
ユーク「確かに、出来る。でも、それに意味があるかは分からない」
シオン「どういう事だ?」
ユーク「未来が確定的なモノなら-そもそも見ても意味が無い。何故なら、変えようが無いのだから。逆に未来が不確定なモノだとしたら、そもそも、未来を見ても仕方が無い。何故なら、見た未来は分岐した未来の一つでしか無いのだから」
シオン「・・・・・・まぁ、言いたい事は分かるけど」
ユーク「ただ、それでも意味は有るのかも知れない。未来を知る事で何かが変わる可能性は有る。ただ、約束はして欲しい。どのような未来が見えても、それに捕らわれないで欲しいと。予知の結果に捕らわれれば、あなたの人生は予知に支配されてしまう」
シオン「予知に支配・・・・・・」
ユーク「そう。予知は-それ自体が力を持つ。その予知の結果に導こうとする力が。たとえ、無理に予知とは真逆の
人生を必死に送ろうとしても、歪みが生じ、より一層、

ひどい人生が待って居る事となる」
シオン「・・・・・・予知を見ても、気にせず生きろと?」
ユーク「そう。だからこそ、意味は無いのかも知れない。でも、シオン、あなたは-それでも予知を見たい?」
シオン「ああ。俺は運命を知りたい。本当に俺の運命が-どうなっているのかを」
ユーク「そう・・・・・・。なら、この水晶を覗(のぞ)いて」
 そう言って、ユークは丸い水晶を机に置いた。
シオン「こうか?」
 シオンは顔を水晶に近づけた。
ユーク「そう。これから-あなたに、ビジョン(映像)を見せる。それは-あなた以外には見えない。私にも。私は導くだけの存在。シオン、覚悟は良い?」
シオン「ああ。始めてくれ」
 とのシオンの言葉に対し、ユークは頷(うなず)いた。
 そして、ユークは水晶に魔力をこめだした。
 すると、シオンは水晶の内部に煙が渦巻くのが見えた気がした。
 気付けば、シオンの意識は水晶の中へと、取りこまれていった。

 

 そこは戦場だった。
 多くのゴブリンがシオン達に襲いかかっていた。

 

 そこは野戦病院だった。
 そこでシオンは一人の女性を抱きしめていた。

 

 そこは火山だった。
 そこでシオンは黒ローブの男達と死闘を繰り広げていた。

 

 だんだんと、視界は歪み、映像は断片化し出した。
 誰かが殺し合っていた。
 誰かが吹き飛んでいた。
 良く分からなくなった。

 

 血まみれのシオンをエレナは愛(いと)おしそうに抱きしめていた。

 

『・・・・・・』

 

『・・・・・・あぁ、そうか、俺は本当は・・・・・・』

 

「シオンッ!」
 と、ヴィルは叫び、剣を構えた。
「先輩ッッッ!」
 と、シオンは叫び返し、ヴィルに剣を向けるのだった。
 そして、次の瞬間、二人の剣技が-ぶつかり合った。

 

 すると、シオンの意識は唐突(とうとつ)に現実に引き戻された。
シオン「ッ・・・・・・俺は?」
 シオンは痛む頭を押さえながら尋ねた。
ユーク「危ない所だった。シオン、あなたは-もう予知を見ない方が良い。あなた-は今、予知に取りこまれる所だった」
シオン「・・・・・・そうか。なぁ、今の映像は・・・・・・?」
ユーク「誰にも話しては-いけない。それは-あなたの心にしまって置くべき事」
シオン「・・・・・・分かった。なら、質問を変えるよ。ユーク、君は今回の出兵に賛成かい?それとも反対かい?」
ユーク「どちらでも無い。どちらにせよ、今回は-私は生き残る
    運命だから。シオン、あなたも」
シオン「・・・・・・そうか。なら、大丈夫なのかな?」
 と、シオンは呟(つぶや)いた。
 すると、ノックが-された。
エレナ「ちょっと-いいかしら?」
 とのエレナの声が扉の外から-かけられた。
ユーク「・・・・・・どうぞ」
 そして、エレナは部屋に入って来た。

エレナ「シオン。今、聖騎士の方(かた)が来られて、道が復旧したって」
シオン「ずいぶん早いな。予定では、後数日かかるハズだろ?」
エレナ「ええ。でも、偶然、道を塞(ふさ)いでいた岩が独(ひと)りでに崩れていったんですって」
シオン「そうか。なら、支度(したく)をしないとな」
エレナ「ええ」
シオン「じゃあ、ユーク。俺は部屋に戻るよ。ありがとな」
ユーク「どういたしまして・・・・・・」
 そして、シオンとエレナは部屋を出て行った。
 一人、残されたユークは目を瞑(つむ)った。
ユーク「・・・・・・どうせ、予知なんて意味が無い。女神にとり、都合の悪い運命は全て、書き換えられるのだから。でも、でも・・・・・・シオン。あなた-との交(まじ)わり、それが無かった事にされても、私の魂には残り続けている。でも、今は-それで良い。いずれ、再びチャンスは訪れる。女神や魔神の思惑(おもわく)を越えた存在が現れつつある。クオーツ、眠りし女皇帝(じょこうてい)・・・・・・。彼ら-の存在を書き換える事は何者にも出来ず、彼ら-の運命を正確に予知する事など、何者にも出来ない」
 そこまで言って、ユークは言葉を区切った。
ユーク「それに・・・・・・予期せぬ者達が現れた。あまりにも矮小(わいしょう)で、あまりにも平凡で、いや、それでいてあまりに非凡な存在。ヴィル、そして、その仲間達。彼ら-は確定されし運命の隙間(すきま)を今、かいくぐっている。彼ら-の選択しだいでは、新たな運命が紡(つむ)がれるかも知れない。フフ、見せて欲しい。矮小(わいしょう)なるヒトが、神々の思惑(おもわく)を越える所を。その時・・・・・・シオンは真に私のモノになるのだから」
 と、ユークは冷たく呟(つぶや)くのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 

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