アーカーシャ・クロニクル

 第5話  ハンター

 

 迷宮が崩れていく中、隠し出口付近では-カシムとゴブリンの少女とモロンが、ヴィル達を待って居た。
モロン「団長・・・・・・」
カシム「・・・・・・これは・・・・・・来ます」
すると、壁が崩れ、ヴィル達が現れた。
モロン「団長ッ!トゥセ、アーゼッ!」
 と叫び、モロンは三人に駆け寄った。
ヴィル「モロン、ありがとな。でも、今は早く逃げないと」
トゥセ「まぁ、俺達、逃げ足だけは早いッスからね」
アーゼ「まったく・・・・・・」
ヴィル「行こう」
 そして、ヴィルを先頭にヒヨコ豆-団とゴブリンの少女は迷宮を脱出するのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 一方で、剣聖シオン達は迷宮の外で立ち尽くしていた。
 シオン達の位置は、迷宮を挟んで、ヴィル達と真逆の位置に居たため、両者が-かち合う事は無かった。
シオン「・・・・・・ニア」
 と、シオンは-呟(つぶや)いた。
エレナ「大丈夫、ニアは-生きているわ。ほら」
 すると、瓦礫(がれき)が吹き飛び、中からニアが出てきた。
ニア「やれやれ、ひどい目にあったよ」
 と、ニアは-ふらつきながら言った。
エレナ「ニア、その目・・・・・・」
 ヴィルから受けたニアの傷は-ほとんど治っていたが、左目に受けた傷だけ、そのままで残っていた。
ニア「あぁ、これ?ふふ、記念に残しておこうと思って。あっ、彼ら-には、逃げられちゃったよ。仕留めそこなっちゃった。シオン、ごめんね」
シオン「いや、いいさ・・・・・・」
ニア「でも、傷は負わせたから、そう遠くへは行けてないハズだよ。いますぐ、追えば、間に合うだろうよ。どうする、シオン?」
 との言葉に、シオンは迷った。
シオン(いますぐ、先輩達を追えば、先輩達を捕らえる事はたやすいだろう。だけど、それは・・・・・・。いや、むしろ、俺は・・・・・・。駄目だ、何を考えて居る。だけど、だけど、どうしてかな、何もかも捨てて、先輩達に協力したい自分が居る。でも、俺は剣聖で、今はギルドを束(たば)ねる立場で・・・・・・。駄目だ。覚悟しろ、シオン。ただ、少しだけの猶予(ゆうよ)を)

 と、シオンは-ごちゃごちゃと考えた。
エレナ「シオン?」
シオン「ああ。ヴィル達は追わない。後はハンターに任せる。それが一番だ。反逆者はハンターに、それが原則だ」
 との言葉に、皆は頷(うなず)いた。
エレナ「なら、騎士団を通じ、領主様に報告しましょう。
    それが、一番-早いわ」
シオン「ああ・・・・・・そうしよう・・・・・・」
 と、シオンは寂(さび)しげに答えた。
 その時、シオンは腰の聖剣がズシリと重くなるのを感じた。
 そして、シオンは聖剣の声を聞いた気がした。
『シオン・イリヒムよ・・・・・・若き剣聖よ。お前の運命は今、死んだ・・・・・・』
との声を。
それに対し、シオンは身震(みぶる)いをした。
エレナ「シオン?どうしたの?」
シオン「い、いや、何でも無い。行こう・・・・・・」
 と、シオンは動揺を抑えながら答えるのだった。

シオン(今のは・・・・・・幻聴だったのか?いや、それにしては何て生々しい声だったんだ・・・・・・。でも、それでもそれでも俺は・・・・・・)
 そして、シオンは迷いを断ち切るように首を振り、歩き出すのだった。

 

 それから数日が-たった。

 

 ・・・・・・・・・・
 クエスト屋に、異様な風貌(ふうぼう)の者達が訪れていた。
 彼ら-は黒ローブに身を包み、姿を見えづらくしていた。
 その中のリーダー格の男が、クエスト屋の-おばさん-に詰め寄っていた。
男「だからさ、僕は聞いているんだよ。ヴィルという冒険者とそのギルドの情報を」
おばさん「知っている事は全て話したよッ!そもそも、あんた達の前に、聖騎士-様に全て-お話したよッ!」
男「・・・・・・いやいや、聖騎士の方々(かたがた)のするような質問は、したくないんだよ。僕が知りたいのはさ、もっと暗く深い話さ。それこそ、トラウマって奴さ。奴は普通じゃ無い。普通じゃ無い人間には普通じゃ無いルーツが-あるモノなのさ。そうで無い人間は、まぁ、僕くらいのモノかな?逆に言えば、僕は、自分と同じ・・・・・・生まれついての存在というモノを探しているのかも知れない」
 と、男はブツブツと呟(つぶや)くのだった。
おばさん「あんた達には、これ以上、何も話す事は無いよッ!大体、あの子達は良い子達なんだッ!何か理由が-あったハズなんだ。それなのに、あんた達みたいな元(もと)暗殺ギルドに協力するワケないじゃないか」
 との言葉に、男は低く笑った。
男「これは、これは勇敢なヒトだ。僕たちを元(もと)暗殺ギルドと
知ってなお、その口を叩くか。笑え・・・・・・」
 すると、男の部下達も低く笑い出した。
 それに対し、クエスト屋のおばさんは、恐怖で震えだした。
男「そうさ、それが僕たちの求めているモノさ。恐怖、畏怖、それが僕たちの糧(かて)となる。さぁ、もっと怯え、震え、僕たちを楽しませてくれ。さぁ」
 しかし、クエスト屋のおばさんは、男をにらみつけた。

おばさん「あ、あんた達なんか怖くないさ。ヴィルちゃん達だって、今、辛いハズなんだ。あんな良い子達が皇国やハンター達に追われるなんて、おかしいよ。おかしいじゃないかッ」
 と、微(かす)かに震えながらも、はっきりと言うのだった。
男「しかし、しかし、逆に言えば、君は何かを知っていると言う事になる。なら、聞き出すしか無いだろう。正義の味方の聖騎士様には出来ない聞き方をしよう。ふふ、どうせ、すぐに全てを白状するさ。どうせ・・・・・・ね」
 との男の言葉に、男の部下達はクエスト屋のおばさんに
近づいていった。
おばさん「ひぃッ」
 その時、扉が開かれた。
 男達は-そちらの方を見据(みす)えた。
 そこにはエルフの美青年が立っていた。
エルフ「お前達は何をしている・・・・・・」
 と、そのエルフは怒りを隠せずに男達に詰め寄った。
部下「何だ、貴様はッ」
 と、黒ローブの部下が-すごんだ。
エルフ「お前達、あまり一般人に非道な真似をしていると、処分を受けるぞ。それで-いいのか?」
部下「てめぇッ!」
 と言って、部下は魔力を高めた。

 それをリーダーである黒ローブの男は制した。
男「やめろ・・・・・・。さて、さて・・・・・・これは、困った。困ったが、これは仕方が無い。一応、僕も皇国に忠誠を誓う身、従う他は無いかな・・・・・・」
 と、男は-そのエルフの顔を見て言った。
男「だが・・・・・・次は無い。もし、今度、僕たちを邪魔する事があれば、貴方(あなた)が誰であろうと、容赦(ようしゃ)はしない・・・・・・。行くぞッ」
 そして、黒ローブの男達は煙のように去って行った。
 店はエルフとおばさん以外-居なくなり、静寂(せいじゃく)に満ちた。
おばさん「あ、ありがとうございます。あ、貴方の名は?」
エルフ「俺の名はクオーツです」
 と言って、そのエルフは微笑(ほほえ)むのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 剣聖シオンの一行は高級旅館で食事をとっていた。
 そこへ、扉が開き、聖騎士達が入って来た。
 そして、聖騎士の隊長の男がシオンに歩み寄った。
聖騎士「剣聖シオン・イリヒム殿ですね」
シオン「ええ」
聖騎士「私は聖騎士の第7連隊を率(ひき)います-カロース・トルフトと申します。内密の-お話が御座(ござ)います。是非、騎士団の支部へと-ご同行、願いたいのですが」
 と、聖騎士は告げるのだった。
シオン「分かりました」
 と、シオンは答え、シオン達は騎士達に付いていくのだった。

 

 シオン達は応接間に案内されていた。
聖騎士「剣聖シオン殿、元老院よりの要請です。至急、騎士団の第10連隊を率(ひき)いるため、王都に戻られよと」
シオン「つまり・・・・・・戦争が始まるのですね」
聖騎士「是(ぜ)、と答えさせて頂きます。詳しくは、王都で-お聞きください」
シオン「・・・・・・拒否権は無いのですね?」
聖騎士「ええ。これは国王陛下よりの勅命(ちょくめい)でも-あります」
シオン「・・・・・・了解しました。シオン・イリヒム、ただちに王都へ向かいます」
 とのシオンの言葉に、聖騎士は-ホッとした表情をわずかに
見せた。
聖騎士「詳細は-これに」
 そう言って、聖騎士は羊皮紙をシオンに
渡すのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 シオン達は旅館に戻っていたが、その空気は重苦しかった。
エレナ「大変な事になったね・・・・・・」
シオン「ああ・・・・・・。恐らく、最前線に駆り出されるだろう。ククリ島でのゴブリン殲滅戦(せんめつせん)へと・・・・・・」
ニア「ハハ、楽しくなって来たね」
大男「しかし、連隊を率(ひき)いるのか。大事(おおごと)になってきたな」
シオン「ああ・・・・・・。だけど、今回の出頭は俺だけだ。皆は来る義務は無い」
 それに対し、皆はフッと笑った。
エレナ「私達、ギルドの仲間でしょ?最後まで一緒よ」
 とのエレナの言葉に、皆は頷(うなず)いた。
シオン「ありがとう・・・・・・」
 と、シオンは弱々しくも微笑(ほほえ)むのだった。
シオン(もし・・・・・・もし、俺が-あの時、一人、ヴィル先輩の所へと行っていたら、エレナ達は戦争に巻き込(こ)まれる事は無かっただろう・・・・・・。俺は選択を間違えたのだろうか?いや、考えても仕方が無い。俺は皇国(おうこく)に従う道を選んだんだ。なら、それを貫くまでだ)
 と、シオンは思うのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 その頃、ヴィル達は森でテントを張っていた。
トゥセ「いやぁ、こうしてみると、宿屋を使わない生活に慣れていて、良かったと思いますよ」
アーゼ「不幸中の幸いだな。それより、カシムさん-は大丈夫ですか?」
カシム「ええ。ご心配なく。山での修行が長かったので」
 すると、良い匂いがしてきた。
モロン「みんな、ご飯できたよー」
トゥセ「よっしゃ、食べようぜ」
 そして、トゥセ達は食事を始めた。
 しかし、ゴブリンの少女は手を付けようとしなかった。
ヴィル「食べないのか?困ったな・・・・・・」
モロン「そうだ」
 すると、モロンの抱きかかえていた人形が-独(ひと)りでに動き出した。
 その人形はスプーンを持ち、ゴブリンの少女に食事を差し出した。
 それを見て、ゴブリンの少女は恐る恐るスプーンを口にした。
 すると、ゴブリンの少女は目を輝かせた。

 そして、ゴブリンの少女は自分で一気に-ご飯を食べ出すのだった。
ヴィル「ナイスだ、モロン」
モロン「えへへ」
カシム「しかし、その人形・・・・・・羽ウサギの人形ですか?」
モロン「うん。そうだよ。とっても、良い子なんだよ」
カシム「そのようですね。その人形の魂は貴方(あなた)を守っていますよ」
モロン「え?ほんとう?団長、すごいよ。羽ウサギちゃん、
守ってくれてるって」
ヴィル「良かったな、モロン」
 と言って、ヴィルは微笑(ほほえ)むのだった。
トゥセ「ところで、団長。カシムにヒヨコ豆-団の由来を教えなくて-いいんすか?」
アーゼ「お前・・・・・・この非常時に-もっと別な事、話す気は無いのか?」
トゥセ「いやいや、だって、団員になったのに、それを知らないって、良くないと思うぜ。なぁ、カシム」
カシム「なら、是非、お聞かせください」
トゥセ「おう。あれは雪の日、俺達は必死に害獣駆除のクエストをこなしていたんだ。ただ、その時はギルドに入って無くて、依頼料金をぼったくられてて、それで、正式にギルドを結成しようと思って、その資金のため、その害獣駆除の依頼をこなしてたんだ」
トゥセ「しかし、それは年末で、その日を過ぎるとギルドの申請は翌年になっちまう。でも、不運な事に、害獣の一体に逃げられちまった。それで依頼主に怒られ、俺達は-ただ働きをさせられるハメとなった。でも、依頼主に事情を説明して、前金として、ギルドの登録料だけはもらって、モロンが一人、登録に行く事になったんだ」

トゥセ「でも、それがマズかった・・・・・・。モロンは、予め決めてあったギルドの名前を忘れて、自分の好きな名前を付けちまったんだ。その名も『ヒヨコ豆-団』後から、名前を変えようとしたが、それには手数料がかかるから、今もなお-その名前のままなのさ」
 と、トゥセは長々と説明した。
カシム「なる程。しかし、ヒヨコ豆-団も良い名前と思いますよ。
    ヒトに親しみを与える名前だと思います」
アーゼ「そうだぞ、トゥセ。あんまし、モロンをいじめるな」
トゥセ「しかし-よぅ」
モロン「うぅ、ごめんよ、トゥセ」
ヴィル「トゥセ。あんまし、過ぎたことを言うな。もてないぞ」
トゥセ「うッ・・・・・・モロン、悪かった。本当に悪かった。お、俺は-みみっちく無いよな?」
モロン「うん。トゥセは-とっても大らかだと思うよ」
 とのモロンの言葉にアーゼは噴き出した。
トゥセ「おいッ、笑うな、この馬鹿ッ!」
アーゼ「いや、すまん、すまん。つい」
トゥセ「全く。ところで、団長。これから俺達、何処へ向かうんですか?」
ヴィル「古(いにしえ)の森を抜けて、港へ向かう。港の候補は-いくつかあるな。そこは状況しだい-だな」
アーゼ「はは、結構、行き当たり-ばったりですね」

ヴィル「まぁなぁ・・・・・・」
 と、ヴィルは苦笑するのだった。
 すると、草むらから音がした。
 ヴィル達は-おのおのの武器に手をかけた。
 しかし、出てきたのは一匹の黒猫だった。
トゥセ「猫かよ・・・・・・」
カシム「いえ・・・・・・これは・・・・・・」
黒猫「おお、やっと見つけたわい」
 と、黒猫はヒトの言葉を話した。
トゥセ「ね、猫が-しゃべったぁ?」
アーゼ「だ、団長ッ」
ヴィル「い、いや、俺に言われても・・・・・・」
 と、ヴィルも困っていた。
黒猫「ワシですじゃ、ワシ。ゴブリンの。ほら、弓矢で殺されたゴブリンですじゃ。死んでしまいましたが、上手く魂が猫に-くっついて、こうして、現世に留まる事が出来ましのたのじゃ」
 との説明にヴィル達は-あぜんとした。
カシム「確かに・・・・・・時折、猫に-そのような事があると、言われてますが・・・・・・。それに確かに、この猫には小さな魂が-くっついて居ます」

トゥセ「まじかよ・・・・・・すごい-しぶとさだな。ジイさん」
黒猫「それが取り柄ですのじゃ」
 すると、ゴブリンの少女が-恐る恐る近づいて来た。
 それに対し、黒猫はゴブリンの言葉で話し出した。
 両者は少しの会話をかわした。
 すると、ゴブリンの少女は泣きながら、黒猫を抱きしめるのだった。
 その心温まる様子を見て、ヴィル達は微笑(ほほえ)むのだった。
トゥセ「ま、何にせよ、良かったって事だぜ」
 と、トゥセは呟(つぶや)くのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 質屋に-そのエルフ、クオーツは居た。
クオーツ「この剣は・・・・・・」
 すると、質屋の男は口を開いた。
男「おっ、お客さん、お目が高いね。それは、ある冒険者の持ち物でね。相当に魔力が練りこまれて使いやすいと思うよ」
クオーツ「これを」
 そう言って、クオーツは金貨を十枚-渡した。
男「こ、こんなにッ、い、いいんですか旦那?」
クオーツ「ええ。ただし、この剣の事は内密にしてください」
男「は、はいッ。秘密にします。墓場まで持って行きます」
 そして、クオーツは店を後にした。
クオーツ「ヴィルさん・・・・・・」
 と、呟(つぶや)き、クオーツは大通りを歩き出すのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 

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