アーカーシャ・クロニクル

 第4話  脱出

 

「これは、これは、どういう事かな?どういう事なのかなぁ?」
 との女性の声が響いた。
 ヴィル達が振り返ると、そこには、いつの間にか、レイピア使いの女性が立っていた。
 彼女こそ、剣聖シオンのギルド・メンバーのニアであった。
ニア「なんで、シオンの先輩がゴブリンを抱きしめてるのかな?そして、なんで、そこのギルドの人達は倒れているのかな?説明・・・・・・してもらわないとね」
 と、ニアは軽快に言うも、目は笑っていなかった。
トゥセ(やべぇ・・・・・・)
 と、トゥセは思い、ポケットのカードに手をかけた。
 すると、ニアのレイピア(刺突剣)がトゥセの方に向いた。
トゥセ「う・・・・・・」
 トゥセは剣先から感じる迫力で動けなくなっていた。
ヴィル「見逃してくれ・・・・・・頼む・・・・・・」
 と、ヴィルは苦し紛(まぎ)れに言うのだった。
 すると、シオン達が駆けてきた。
シオン「先輩?」
 シオンは目の前の光景に、驚きを禁じ得なかった。

ニア「シオン・・・・・・君の先輩は、残念ながら反逆者に墜ちてしまったようだ。残念だ、残念だね・・・・・・」
シオン「馬鹿な・・・・・・先輩、ヴィル先輩。嘘・・・・・・ですよね?」
ヴィル「いや、本当だ。俺は、この幼いゴブリンを殺せない。この子は無抵抗だ。何も悪さをしてない。それなのにどうして殺さねばならないッ!」
シオン「先輩・・・・・・本気で言ってるのですか?」
 すると、シオンの彼女であるエレナが口を開いた。
エレナ「ヴィルさん・・・・・・このゴブリンを生かしていたとして、大きくなってヒトに危害を加えないと保障できますか?さらに、このゴブリンに子供、孫が出来たとして、そいつらが人間に危害を加えないと、どう保障してくれるのですか?」
ヴィル「・・・・・・保障は出来ない。だが・・・・・・そんな考えじゃ、ヒトと魔族は永遠に戦い続けねばならない。そうだろ?他に道は無いのか?」
 すると、シオンが何とか口を開いた。
シオン「先輩の言っている事は分からなくもありません。なら、こうしては-どうです?このゴブリンは、隣国のサーゲニア王国へ引き渡すと言うのは?あの国は魔族を奴隷として生かすことも有ります。そうすれば、問題ないじゃないですか?」
ヴィル「シオン・・・・・・お前は、魔族達が働かされている鉱山を見た事があるのか?そこは-あまりに不衛生で、劣悪で、粉塵(ふんじん)のせいで肺病にかかる。それは、ある意味、処刑よりひどい扱いだ」
シオン「ならッ、ならッ!どうするつもりですかッ!先輩ッ!あ、あなたは子供じゃ無いんですよ?どうするつもりなんですか?反逆者となったら、皇国から指名手配になるんですよ?各地のハンター達が-あなたを狙う。それで良いんですか?先輩ッ!」
 と、シオンは柄(がら)にもなく叫ぶのだった。
ヴィル「俺は・・・・・・この子をククリ島へと帰そうと思う。もし、そこも危険だったら、さらに奥へと進もうと思う」
シオン「馬鹿な・・・・・・。大戦が始まるかも知れないんですよ。いや、それ以前にククリ島のゴブリン達は、先輩達を殺そうと襲いかかって来るでしょう。それで、どうするんですか?」
ヴィル「さぁな。まぁ、何とかなるだろう」
シオン「先輩・・・・・・。この世界は・・・・・・先輩の言っている-ような綺麗事では回らないんですよ」

ヴィル「それは良く分かっているさ。でもな、シオン。それでも俺は、こうして生きている。本来、死ぬべきだったこの命、どうせなら有意義な事に使いたい。・・・・・・ギャンブルかな、ギャンブル」
 そう言って、ヴィルは目を閉じた。
シオン「先輩ッ!本気で言ってッ」
 次の瞬間、地面にカードがぶつかり、閃光が発された。
シオン「ッ」
 シオンは油断していたのもあり、数秒間、硬直してしまった。
 そして、気付いた頃には、ヴィル達の姿は無かった。
エレナ「ッ、シオンッ、どうする?今すぐ追えば、全員、始末できる」
「待て・・・・・・」
 すると、メンバーの一人の大男が口を開いた。
大男「彼らを相手するなら相当の覚悟が必要だぞ、エレナ。見ろ。あそこで気絶する男の腕を」
エレナ「え?」
ニア「なる程。手が完全に切断されているにも関わらず、全く血が出ていないね。まるで、腕が切られた事に気付いていないかのようだ」
大男「ああ。並の使い手じゃない。まぁ、シオンが本気を出せば問題は無いだろうが、シオン。お前は先輩を相手に、本気で戦えるのか?シオン、お前に、その覚悟はあるのか?」
シオン「俺は・・・・・・」
大男「そこで即答できないようじゃ、危険な相手だぞ。それに、あのカード使いのダーク・エルフ。かなりの手(てだ)練れだ。一昨日(おととい)の決闘では余程、手を抜いて居たのだな」

ニア「だろうね。さっきのカード、油断していたとはいえ、私は反応できなかった。かなりの使い手である事は間違いない・・・・・・。しかも、それを一昨日の決闘では悟らせなかった。嫌な相手だ、本当に、嫌な相手・・・・・・」
 と、ニアはゾッとする目つきで言うのだった。
エレナ「・・・・・・シオン、今回は、止めときましょう。通報すれば問題ないでしょう?後の事はハンター達に任せましょう。ね?ここでシオンが無茶する必要ないよ」
シオン「ああ・・・・・・」
ニア「ハハ、でも、残念。私は-おさまりきらないよ。この感情を。もう、火が点(つ)いてしまった。でも、エレナ、君が君が、駄目と言うなら、私は止めるよ。だって、君は私にとり、絶対の女神、そして、マイ・ロードなのだから。どうする、エレナ?」
エレナ「・・・・・・好きにして良いわよ、ニア。私には貴方(あなた)を
止める事は出来ない」
ニア「ならば、行くよ」
 そう言い残し、ニアは一瞬で消えていった。
エレナ「シオン・・・・・・元気だして、ね」
 そう言い、エレナはシオンを抱きしめた。
シオン「すまない・・・・・・」
 そう-シオンは寂しげに答えるのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 ヴィル達は必死に迷宮を駆けていた。
トゥセ「いやぁ、上手く行きましたね、団長」
ヴィル「ああ・・・・・・お前が、合い言葉を覚えていてくれて助かった」
アーゼ「〈ギャンブル〉を2回、言ったら閃光のカードですよね」
ヴィル「ああ」
モロン「うー、目が眩(まぶ)しい・・・・・・」
 と、モロンはアーゼの背で言うのだった。
ヴィル「大丈夫、後で、治癒(ちゆ)魔法をかけてやるからな」
トゥセ「へへ、団長の治癒魔法は下手だけどな」
ヴィル「そんだけ軽口、叩けるなら-お前も大丈夫だな。それよりカシムさん、あなたまで、付いてこられる事は無いんですよ」
 と、ヴィルは-少し後ろを走るカシムに対し言った。
カシム「いえ、どうか是非(ぜひ)、ご同行させてください。私は-あなた達たちに光を見ました。それは清らかな、そして、尊い光です。私は-それを守りたいと思うのです」
 とのカシムの言葉は不思議とヴィル達の心をうった。
ヴィル「・・・・・・カシムさん、いや、カシム。なら、俺達は仲間だ。これからよろしくな」
カシム「ええ」

 と、走りながら、カシムは嬉しそうに言った。
トゥセ「しかし、『光』って、俺の閃光のカードじゃないよなぁ?」
アーゼ「馬鹿トゥセ、あんまアホな事いって、ちゃかすんじゃないッ」
トゥセ「馬鹿ッてなんだ、馬鹿ッて!俺は真剣に考え」
カシム「待って下さい」
 とのカシムの言葉に、全員が止まった。
カシム「何か・・・・・・強大な何かが近づいて来ます・・・・・・。まずい、これはッ!」
 すると、壁が一気に砕かれていった。
 そして、中から、ニアが出てきた。
ニア「やぁ、逃亡、お疲れさま。でも、ここが終着点みたいだ」
 と、ニアはニヤリとして言った。
ヴィル「トゥセ、アーゼッ!後は任せるッ!ここは俺が引き受ける。集合場所Dに数日して来なかったら、先に進め!いいなッ!」
トゥセ、アーゼ「了!」
 そして、トゥセとアーゼは走って行った。
ニア「なになに?その集合場所Dって?いやぁ、しっかりしてるんだねぇ、先輩」
 そう言って、ニアはレイピアをヴィルに向けた。

ヴィル「そうじゃないと生きて来れなかっただけだ・・・・・・」
 そう言って、ヴィルは長剣を抜いた。
 そして、二人の間に緊張が走った。
ヴィル「一応、聞いておくけど、見逃してはくれないか?」
ニア「駄目だよ」
ヴィル「俺は女性と戦いたくない」
ニア「なら、女性と思わなければ良い」
ヴィル「その発言・・・・・・後悔するなよ」
ニア「ふふ、するわけが無いよ。さぁ、始めよう」
 そして、二人は対峙(たいじ)した。
 二人は間合いをすり足で微妙に-ずらしていった。
 そんな中、ニアはヴィルの事を楽しげに観察していた。
ニア(なる程、一般的な剣士の構えだ。そして、上段より少し、下な感じ、私の喉元に向けている。アハハ、これじゃ、中々、間合いに入りづらいな。腕の長さの分、私のがリーチが短いから、奴の剣を一回は弾く必要がある。まぁ、それは-いつもの事だけどね・・・・・・)
 と、ニアは一瞬で思考した。
 そして、夜露(よつゆ)が天井から滴(したた)り、水たまりへと降った。
 次の瞬間、ニアは一気に仕掛けた。

 見えない程の攻防の結果、ニアは横に跳んだ。
 ヴィルの頬(ほお)はニアの突きにより、皮が斬れていた。
 一方で、ニアの腕の防具は砕かれていた。
ニア「はは、凄い、これは凄い。なんて素晴らしい剣だ。いや、これは剣というより、刀の作法かな?そう、西方に伝わると言う-サムライの技だ。そうだろう?」
 しかし、ヴィルは答えようとしなかった。
ニア「フフ、ウフフフフッ。あぁ、今のままじゃ駄目だ。今のままじゃ、肉は斬れても、骨は断(た)てない。君は逆に肉を斬らせても骨を断とうとしてくる。そういう手合(てあ)いには、今のレイピアじゃ、殺しきれない。だから、少し、変化させよう」
 そして、ニアはレイピアに魔力をこめた。
 すると、レイピアの長さが伸び、より禍々(まがまが)しい形状へと
変化した。
ヴィル「魔剣・・・・・・」
 と、思わずヴィルは呟(つぶや)いた。
ニア「そう、私の分身である魔剣。名前は無いよ。しいて言うなら、ニア。魔剣ニア、それが-この子の名前だ。だって、私そのモノなのだから」
 と、ニアは楽しげに言った。
ヴィル「・・・・・・本気で殺す事になるかも-しれないんだぞ」
ニア「剣士とは-そういうモノだろう?」
ヴィル「・・・・・・残念だよ」

 そして、ヴィルも魔力を高めた。
ニア『さぁ、終わりの時間だ』
 そして、ニアは一気にレイピアを突き出し、剣技を発動した。
 次の瞬間、槍のような魔力がヴィルを襲った。
 ヴィルは-それを懸命に避けた。
ヴィル(大丈夫だ。これだけの魔力を使っていれば、すぐに魔力は無くなる。そうなれば・・・・・・」
ニア「私は魔力切れなんか、起こさないよ」
 次の瞬間、ヴィルの脳天を魔力が貫こうとした。
 しかし、ヴィルは-とっさに剣でニアの魔力を防(ふせ)いだ。
ヴィル「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」
 ヴィルは-この短い攻防を経(へ)て、肩で息をしていた。
ニア「もう、終わりかな?つまらないね、つまらない」
 ニアは-余裕そうに、ゆっくりと歩いて来た。
ニア「もう少し、本気を出そうと思ったんだけどね。フフフ、ヒトの子と遊ぶのは久しぶりでね」
 すると、ニアの両目が赤く染まった。
ヴィル(何だ、こいつは・・・・・・。こいつ、ヒトじゃない。こいつは、異形だ。比喩じゃなくヒトの形をした化け物だ)

 と、ヴィルは悟るのだった。
ニア「残念だけど、君の部下達も全員、殺すよ。本当に残念だけどね」
 その言葉に、ヴィルは激昂(げっこう)し、剣に魔力をためた。
ヴィル「オオオオオッッ!」
 と、叫びながら突っ込んでくるヴィルを見て、ニアは妖艶な笑みを浮かべ、剣に魔力をこめ、剣技を発動するのだった。
 そして、二つの剣技が発動し、両者は-すれ違った。
ヴィル「ッ・・・・・・」
 ヴィルは胸元を浅く斬られ、血が出ていた。
 一方で、ニアは左目を横に斬られていた。
ヴィル「もう、終わりだ。片目では戦えない。今すぐ治療すれば、恐らく、視力に問題は無いだろう。剣を今後も続けたいんなら」
 すると、突然、ニアは笑い出した。
ニア「アハハッ、こんな眼、なんにも-ならないよ、だって、元々、見えてないし、こんな左目」
 そう言って、ニアは左目の義眼を手で取った。
ニア「こんなモノ必要無い」
 そう言って、ニアは義眼を手で握りつぶした。
ヴィル「馬鹿な・・・・・・」

ニア「何にも変わらないんだよ、先輩ッ!」
 そう叫び、ニアは剣技を発動した。
 強大な魔力がヴィルに突き刺さろうと迫った。
 ヴィルは渾身(こんしん)の真力をこめ、防御の剣技『護衛陣』で応(おう)じた。
 しかし、『護衛陣』は-あっけなく崩され、ヴィルの体は吹き飛んで行った。
ヴィル「ガッ・・・・・・」
 ヴィルの腹部には穴が空いていた。
 そして、ヴィルは血を吐くも、立ち上がった。
ニア『いいねぇ、いいねぇ、最高だよ。本気を出そう。本気を。アッハッハッハッハッ!』
 と、ニアは笑いながら、魔力をどんどんと高めた。
 その魔力に迷宮は共鳴し、地響き-が起きだした。
 そんな中、ヴィルは-ただ、普通に剣を構えるのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 シオン達も迷宮の異変に気付いて居た。
シオン「何だ?」
エレナ「これは、まさか・・・・・・」
 すると、メンバーの大男が口を開いた。
大男「シオン、まずいぞ。ニアが全力を出してしまったら、こんな古びた迷宮、砕け散る可能性すら・・・・・・」
 すると、メンバーの細身の男が叫んだ。
男「な、なんやてッ!それ一大事や無いかッ?シ、シオンはん、はよ、逃げよ、な、な」
シオン「・・・・・・撤退だ」
 と、シオンは短く告げるのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 迷宮は徐々に崩れていった。
 天井から瓦礫(がれき)が降り注(そそ)ぐ中、ヴィルは必死にニアの攻撃を避けていった。
ニア「避けるだけじゃ勝てないッテ、習わなかったのかいッ!」
 と、叫び、ニアは剣技を発動した。
 次の瞬間、槍の如(ごと)き魔力が、五月雨(さみだれ)のようにヴィルを襲った。
 ヴィルは懸命に防御するも、そのいくつかの魔力が肩や腕を貫いた。
ヴィル「ッ・・・・・・」
 それでも必死に体勢を整え、ヴィルは横に跳ぼうとした。
 しかし、不運な事に、上から瓦礫がヴィルに降り注ごうとし、
ヴィルは何とか避けるも、無理な体勢で跳んでしまった。
ニア「アハッ」
 と、死の笑みを浮かべながら、ニアはヴィルに上級剣技を放とうとした。
 次の瞬間、カードがニアを襲った。
ニア「ッ」
 ニアは-とっさに、横に避け、攻撃のあった方向をにらんだ。

ニア「君は-お呼びじゃないんだよ」
 そこにはトゥセとアーゼが立っていた。
トゥセ「悪いが、俺は-お呼びなんだよ」
ニア「邪魔だ・・・・・・」
 そして、ニアはトゥセ達に一気に襲いかかった。
 トゥセは必死にニアの攻撃を避け、逆にカードで反撃しだした。
 その隙にアーゼはヴィルの元に駆け寄り、回復薬をかけた。
ヴィル「回復薬、最後の一本か」
アーゼ「はい・・・・・・」
ヴィル「なんで戻って来た?」
アーゼ「団長を見捨てられませんでした・・・・・・。モロン達は
隠し出口の付近に居ます」
ヴィル「そうか・・・・・・」
アーゼ「団長・・・・・・すいません」
ヴィル「馬鹿だな、お前達は・・・・・・。さてと」
 そう言って、ヴィルは立ち上がった。

アーゼ「無茶です。そんな体で」
ヴィル「無茶なのは同じだ。なぁ、アーゼ。数分、稼(かせ)いでくれないか?」
 その要求が-あまりに無茶である事は両者には分かっていた。
 しかし、アーゼは何のためらいも無く答えた。
アーゼ「はい」
 と。
 すると、トゥセは吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。
アーゼ「トゥセッ!」
 と叫び、アーゼは手信号で意思を伝えた。
 それを見て、トゥセの顔つきが変わった。
トゥセ「了解ッ!」
 そう叫び返し、トゥセは必死に攻撃を避けながら、カードを放っていった。
 今、トゥセとアーゼは命を削りながら、ニアの攻撃を防(ふせ)いでいた。
 そんな中、ヴィルは-ゆっくりと魔力を高めた。
ヴィル「始まりは剣・・・・・・終わりも-また剣なり・・・・・・。全ては実在にして、虚無。今こそ、全てを断とう・・・・・・」
 と、言の葉を発し、ヴィルは最上級-剣技を構築していった。

 その時、ニアは背に寒気を感じた。
 ニアはヴィルの周囲に吹き荒れる魔力を見て、心を躍(おど)らせた。
ニア(ああッ、なんだ、あれ?なんだ、あれは?何て、綺麗(きれい)な魔力なんだろう。見てみたい、見てみたいよッ!あの最上級の剣技が発動する所を。でも、駄目だ。私は死ぬワケには-いかないんだ。その危険を冒すワケにも-いかないんだ。悪いけど、邪魔させて-もうらよ、その剣技ッ)
 と一瞬で思考し、ニアは短縮-剣技を次々と発動し、
ヴィルへ向けて、多方向から魔力を放った。
 しかし、それを次々とトゥセはカードで撃ち落とした。
 それこそ、視界の裏側の位置まで。
ニア(こいつはッ・・・・・・天才だッ・・・・・・)
 と、凍れるような時の中、ニアは確信した。
 さらに、アーゼが身を盾にして、残りからヴィルを守った。
トゥセ「させっかよッ!」
 そう叫び、トゥセはカードを放った。
ニア「アハッ!」
 ニアは-あっさりとレイピアを一閃し、カードを弾(はじ)いた。
 そして、ニアは-トゥセとアーゼに肉薄し、直接、剣技を放っていった。
 しかし、トゥセとアーゼは血を吐(は)きながらも、必死に食らい付いてきた

ニア(素晴らしいッ、あぁ、なんて素晴らしいんだ、この者達は、この者達は真に命を懸(か)けている。そして、それに対し、怖れていない。アハハッ、それは私が失ってしまったモノだ。私達が失ってしまったモノだ。喪失の恐怖、死の恐怖、その根源たる恐怖を、今、彼らは超越しているッ!ああッ、ああッ、叫(さけ)び出したいッ、この者達を讃(たた)えるためにッ!ならばッ)
 そして、次の瞬間、ニアは口を開いた。
ニア「ならば、見せよう。私の究極の剣技の一つを」
 そして、ニアの周囲に-おぞましい魔力が高まった。
 次の瞬間、周囲を雷光が包(つつ)んだ。
 光がおさまると、そこにはトゥセとアーゼが倒れていた。
ニア「流石(さすが)に・・・・・・もう、動けないか」
 と、ニアは-つまらなそうに呟(つぶや)き、ヴィルを殺すため、レイピアに魔力をこめた。
トゥセ「させねぇってッ!言ってんだろうがッッッ!」
 と、トゥセは叫び、立ち上がった。
 その腕からは骨が突き出していた。
ニア「君達は何故、それ程まで頑張れるのかな?」
 すると、アーゼも立ち上がった。
アーゼ「ヒトにはッ!命を懸けてまで戦う理由があるんだッ!お前みたいに、ぬるま湯のような日々を送っている奴には分からないだろうがなッ!」
 と、アーゼは血を口から-こぼしながらも叫んだ。
ニア「・・・・・・なら、それでいい。その命の輝きを私に見せてくれ。ヒトよ・・・・・・」

 そして、ニアは魔力を高めた。
 しかし、トゥセとアーゼには-もう力は残されていなかった。
 その時、声がした。
ヴィル「待たせたな」
 そこでは、最上級-剣技の構築を終了したヴィルが立っていた。
アーゼ「団長ッ!」
トゥセ「遅いんですよッ!」
 と、トゥセ達は半泣きになりながら、叫んだ。
ヴィル「すまない。それより、ニアさん、だったか?多分、この技は発動したら、止められない。下手したら、君の体を二分(にぶん)してしまう-かもしれない。だから、出来るなら、ここで終わりにして欲しい。頼む」
 しかし、ニアは首を横に振った。
ニア「今、私を止めないと、私は君達を殺すよ。これは決闘なのだから・・・・・・」
ヴィル「なら・・・・・・仕方無い・・・・・・。トゥセ、アーゼ、どいて居てくれ」
 とのヴィルの言葉に、トゥセとアーゼはヴィルの後ろに移動した。
ニア「さぁ、最後の輝きを見せてくれ、先輩ッ!」
 そして、ニアは最上級-剣技を発動した。
 それに一瞬、遅れて、ヴィルは自身の最上級-剣技を発動した。

 

 『空波斬(くうはざん)』

 

 次の瞬間、リンと鈴の音(ね)が-どこからと無く、鳴り響いた。
 そして、ニアの剣技も周囲の空間も、その波動ごと綺麗(きれい)に斬られていった。
 一瞬の静寂(せいじゃく)が満ちた。
 今、ニアの胴体は完全に、上下に斬られていた。
 しかし、ニアは死んでいなかった。
 それどころか、ニアの上半身は宙(ちゅう)に浮いたままだった。
ニア『ははッ、アハハハハッ、これは参った。今回は私の負けだよッ、ヒトの子よッ!いずれ、また会おう。その時は、君の本当の剣で-かかっておいで。アハハハハッ、私も残りの剣技を見せるからさッ、アハハハハッ!』
 と、崩れる迷宮の中で叫んだ。
ヴィル「逃げるぞッ!」
 とのヴィルの言葉に、トゥセ達は一気に走り出した。
 ヴィル達の背後では、ニアの狂喜(きょうき)に満ちた笑い声が、不穏(ふおん)に響くのだった。

 

 そして、迷宮は崩れていった。

 

 ・・・・・・・・・・

 

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