アーカーシャ・クロニクル

第一話 偽りの平和 

 

部屋には、放熱用ファンの回転音が微(かす)かに響いていた。
そこには、大画面のテレビが-あり、ゲームが起動していた。
『皇子(おうじ)!皇子(おうじ)!』
「ん・・・・・・うん』
 と、ヤクト国-皇子のクオンは答えた。

 

   《クオン》

 

クオンの後ろには南方系の男、サム(サムエル)が立っていた。
 彼はクオンの剣術指南(しなん)、兼(けん)、護衛だった。

 

   《サム》

 

クオン「あと、10分……。駄目?」
と、クオンはゲームのコントローラーを持ちながら振り返って、せつに哀願した。しかし、無駄だった。
サム「駄目ですねぇ」
クオン「そこを、何とか」
サム「駄目なものは、駄目です」
 と、クオンはきっぱりと断られた。
クオン「あんまりだ……」
サム「皇子、公務に遅れます。12・00より……」
クオン「分かった。分かったよ……。行けばいいんだろ?」
サム「ええ」
 そして、クオンはコントローラーの中央ボタンを押し、操作で本体の電源を切った。そして、リモコンでテレビ画面を消し、名残惜(なごりお)しそうに立ち上がった。

 

午後四時半頃、ヤクト国にて。
国道を3台のリムジンが縦に並んで疾走(しっそう)していた。
  クオンの乗るリムジンにはサム以外、二名のSPが乗っていた。
サム「そう言えば、ラース-ベルゼ国との同盟協定が今朝、結ばれたようですね」
クオン「あ、そうなんだ」
サム「ええ。これで、我ら-がヤクト国も安泰(あんたい)と言うモノです。まぁ、このヤクト・ラース-ベルゼ間の同盟協定は、正直、こちらに不利では-ありますがね。仕方ないでしょう」
クオン「そうかもな・・・・・・」
 そして、リムジンはパーティ会場へと進んで行った。

 

・・・・・・・・・・
 ヤクト国皇子、クオンは晩餐会(ばんさんかい)で、ぎこちなく女性とダンスを踊っていた。
 すると、司会の声が響いた。
司会「皆さん!突然の来賓(らいひん)の、ご登場です!ニュクス国第一皇女セレネ・ニュクス・フォルテ殿下と、親衛隊の皆さんです!」
 との司会の言葉に会場はどよめいた。そして、扉が開かれ、セレネ姫と親衛隊・数名と侍女が入って来た。

 

《セレネ》

 

先頭はセレネ姫。その後ろにはスーツを着た女-ノワールが。
その後ろには漆黒(しっこく)の鎧(よろい)と仮面を身に付けた女-シャインと、鎧(よろい)と兜(かぶと)を身につけた大男バルボスが付き添っていた。

 

    《シャイン》

 

さらに、その後ろでは侍女(じじょ)が、もうしわけ-なさそうに付いていた。
 それに対し、元からパーティーに参加していた者達は、あれこれと話し出した。

 

 すると、大きなドヨメキが、あがった。
 クオンとセレネ一行(いっこう)が接触したのだった。
セレネ「ご機嫌うるわしゅうございます。クオン皇子殿下。本日は、こうして謁見の機会を得られた事、まことに心よりの喜びにございます」
クオン「はっはい。あ、あの。セレネ姫。あまり堅苦しいのは抜きにしませんか?この宴は、より広く開かれているわけですし」
セレネ「これは、もうしわけ-ありませんでした。では、クオン皇子。お久しぶりです。もう十年になりますね」
クオン「え・・・・・・あ、はい・・・・・・。そうでした」
 すると、侍女(じじょ)がセレネに耳打ちした。
セレネ「クオン皇子、もうしわけ無いのですが、スピーチがあるようなのです。お話したい事は、積もり積もっているのですが・・・・・・。どうぞ、お許しください」
クオン「あ、いえ。お気になさらず。では、のちほど」
セレネ「はい。では、よしなに」
 と言い残し、セレネは去って行った。

 

 それからセレネのスピーチが始まった。
 そんな様子をクオンとサムは見つめていた。
 すると、仮面を付けた女、シャインがクオンのもとへ、歩いて来た。
シャイン「皇子殿下、少し、よろしいでしょうか?」
クオン「あ、はい。あ、あなたは」
シャイン「シルヴィス・シャインと申します。このような格好で、もうしわけ-ありません」
サム「これはシャイン殿。貴公の武勇伝は聞き及んでおります。ニュクス国の筆頭騎士であり英雄である貴公と-こうして相まみえる事が出来、光栄の限りです」
シャイン「こちらこそ-光栄です。護衛官サム殿」
 そして、サムとシャインは握手をかわした。
クオン「あ、あの、どうかなされたのですか?」
シャイン「いえ。実は、スピーチが終わりしだい、セレネ姫-殿下を先に離宮に-お連れする事となりまして」
サム「どうか-なされたのですか?」
シャイン「いえ、どうも見たところ、セレネ姫殿下も-お疲れのご様子ですし。今、お体に-さわりが-あっては、いけませんから」
サム「なる程。では、すぐに手配させましょう」
シャイン「ありがとう-ございます。それと、皇子殿下、セレネ姫殿下との-ご歓談は、また後(のち)の機会となられる事を、お許しください」
クオン「い、いえ。お気になさらず。あっあの・・・・・・」

シャイン「どうか-なされましたか?」
クオン「ファ、ファンなんです。サインを・・・・・・」
サム「皇子・・・・・・。冗談ですよね」
クオン「え?俺は本気で・・・・・・」
サム「シャイン殿。もうしわけ-ありません。気になさらないでください」
シャイン「はぁ・・・・・・。では、サム殿」
サム「ええ。では、皇子殿下、しばらく離れます」
クオン「あ、うん・・・・・・」
 丁度、セレネのスピーチは終了した。
シャイン「では、皇子殿下、失礼いたします」
と言って、シャインはサムと共に、セレネの方に向かって行くのだった。

 

・・・・・・・・・・
 翌日、クオンは公務をこなし、それから自由行動として、帝都大学へと向かった。
帝都大学の一般開放広場にて、三人の男達、ファス、リグナ、アグリオがクオンを待っていた。
 一人は銀髪で軽快そうな青年、ファス(ファラウス)。

 

   《ファス》

 

一人は無精ヒゲを生やした、体格のいい、そして、南方の血が混じっているのが分かる青年、リグナ(リグナラス)。

 

   《リグナ》

 

最後の一人は知的な印象な、それでいて、よく見るとかなり体格のよい-長髪でゴーグルをかけた青年、アグリオ、であった。

 

   《アグリオ》

 

この三人は、幼少期よりのクオンの悪友であり、信頼の置ける仲間であった。さらに、三人とも、それぞれ種類は違うとはいえ、クオンに勝るとも劣らぬ美男子であり、クオンを含むこの四人が一度(ひとたび)-町を歩けば、道行く女性は皆-振り返ると言っても過言ではなかった。

 

クオン「おーい、お前ら!」
 と、クオンは声をかけた。
ファス「あっ、クオン」
リグナ「やれやれ、ようやく、お出ましか」
クオン「いやぁ、大変だったよ」
サム「ちょっと、いいですか、クオン皇子殿下?」
 そして、サムはアグリオの方を向いた。
サム「皇子(おうじ)親衛隊-隊長アグリオ・アルマ。警護の任を現在時、15・33において、貴官に引き継ぐ。よろしいか?」
アグリオ「了解。アグリオ・アルマ、引き継ぎの任、確認しました」
サム「では、皇子、それにインペリアル・ガード(王族-親衛隊)の諸君、しばし、楽しんで下さい。まぁ、時間が来たら迎えに来ますから、18・00までには、ここに居てください」
 そして、サムは去って行った。
クオン「ハァーーーーーー。解放されたぁーーー」
ファス「お疲れ、クオン」
リグナ「さて・・・・・・じゃあ、下町に行こうぜ」
 そして、四人は下町へ向かうのだった。

 

 クオンはサングラスとマスクをして下町を歩いていた。
ファス「いやぁ、マスクにサングラスって、怪しい人だねぇ」
クオン「そんな事、言われても・・・・・・ん?」
 クオンは目の前を歩いてくる日傘(ひがさ)を差した男と、目が合った気がした。クオンは男の瞳に冷たい炎を見た気がした。しかし、何事も無く、男はすれ違って行った。

 

 

クオン「・・・・・・今の・・・・・・」
ファス「ん?あー、男が日傘、さすなんて珍しいよね」
リグナ「しかし、ありゃ、ただ者じゃないぜ。足音が全くしなかった」
アグリオ「ですね」
ファス「それより、祭(まつり)を楽しもうよ」
 それから、クオン達は屋台を回った。
ファス「ん?何だ、あれ?」
 右前方に人だかりが出来ていた。その中心には盲目の男が叫んでいた。
男「ゆえに、私は声を大にして言いたい!諸君らは騙(だま)されていると!ラース-ベルゼは怖ろしい国だ。必ずや、ヤクトを裏切るだろう!今こそ立ち上がれ!ヤクトの民よ!」
 すると、警官が数名、走ってきた。そして、男を捕まえた。
男「放せ!放せ!売国奴(ばいこくど)めッ!」
 そんな騒動をクオンは遠目に見ていた。
クオン「なぁ」
ファス「クオン、関わっちゃ駄目だ」
クオン「でもさ、あの人の言ってること、そんなに間違ってない気がするんだ」
 すると、警官の腕を男が払った。

男「一人で歩ける!」
 すると、男はクオンの方を向いた。クオンは、そんなはずも無いのに、男と目が合った気がした。
男「オオ・・・・・・見える・・・・・・見えるぞ。私の、めしいた目にもありありと、そのさまが・・・・・・。この国は未曾有(みぞう)の危機に瀕(ひん)するだろう。しかし、その時こそ、英雄が現れる。救国の徒(と)が現れる。その者こそ、真の王、真の王なのだ・・・・・・」
 と、男は涙しながら叫び、クオンに向かって頭を下げた。
それから、男は大人しく警官に連れられていった。

 

 ・・・・・・・・・・
 翌日、クオンには再び自由行動が許されていた。
サム「私は所用で出かけますけど、あんまり遠出はしないでください。明日が、ありますからね」
クオン「ああ、分かってる。明日は大事な式典だからな」
 それから、クオンは親衛隊であるファス達と合流した。
ファス「クオン。せっかくの自由時間だから、どこか行きたい所ある?」
クオン「・・・・・・学校・・・・・・王都学園(中高一貫校)に行きたい」
アグリオ「いいかも-しれませんね」
リグナ「よっしゃ!行って見ようぜ!」
 そして、アグリオの運転する車に乗り、クオン達は母校へ向かった。

 

 

 

 それから、クオン達は母校である王都学園の校門に着き、学内を回り、食堂のおばちゃん-などと話したりした。
そして、クオン達は学園の中庭で涼(すず)んでいた。
クオン「なつかしいな・・・・・・。中学の時は、ここで走り回ってたんだよな」
リグナ「ハハッ、高校もだろ?」
クオン「そうだったな・・・・・・」
リグナ「なぁ、クオン。サッカーしないか?お前との決着、まだ着いてなかっただろ?」
クオン「そう言えば、そうかもね」
リグナ「よし、決まりだ」
 そして、クオンとリグナ達はサッカーを始めた。
 ちなみに、キーパーは-それぞれファスとアグリオだった。
 試合は白熱し、ついにリグナは本気でボールをシュートした。
ファス「え?」
そのボールがファスの顔面に直撃する事になった。
 そして、弾かれたボールは、そのまま、校舎の二階の窓ガラスを突き破っていった。
リグナ「あ・・・・・・」
アグリオ「フム・・・・・・あれは、教員室のようですね」

 と、アグリオは少し声を震わせながら言った。
 すると、眼鏡をかけた女性教師が窓から顔を出した。
クオン「やばい、あれは、やばい」
 クオンは震えだした。
教師「コラーーーーーーッ!貴様ら、何をしてるか!今、行くからな!絶対に逃げるんじゃないぞ!」
 との女教師リオルの声が中庭へと響いた。

 

   《リオル》

 

それから、リオルによる説教が続いた。その間、クオン達は正座させられていた。
リオル「大体、なんだ!大切な式典前だというのに!」
クオン「すみません・・・・・・」
ファス「・・・・・・」
 ファスは足が限界になっており、こっそり正座を崩そうとした。
リオル「何してる、ファス!誰が正座を崩していいと言った?」
 と言い、竹刀(しない)でファスの足をつついた。
ファス「ファオーーーーー」
 というワケの分からない叫び声を、ファスはあげた。
リグナ「あれは痛い・・・・・・」
リオル「まぁいい。クオン。お前も大事な式典があるんだろう?説教はこれくらいに、しておいてやる」
クオン「はい。すみません、でした」
 そして、クオン達は-しびれる足の中、立ち上がった。
 その様子をリオルは意味深(いみしん)に見つめていた。
クオン「じゃあ、先生。そ、そろそろ失礼します。すいませんでした」
 と、クオンは頭を下げた。

リオル「・・・・・・」
クオン「先生?」
リオル「・・・・・・。クオン皇子殿下。そして、インペリアル・ガードの皆様。今までの非礼を、お許し下さい。全ては-あなたがたの教育を任せられた者の務めとしておこなって参りました。ヤクトに栄光あれ!未来の王と守護者達に、栄光あれ!」
 と、リオルは敬礼しながら、叫んだ。その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
クオン「先生・・・・・・」
 と言いつつ、クオンも目をうるませていた。
リオル「クオン皇子殿下。王位継承・確約式典がつつがなく行われるよう、祈っております」
クオン「・・・・・・先生、六年間、お世話になりました」
 そして、クオン達、四人はリオルに対し敬礼をするのだった。

 

・・・・・・・・・・
 クオン達は王宮に帰り、夜空を見上げていた。
 昨日と同じく空では花火が散っていった。
 そして、最後に-ひときわ大きな華(はな)が夜空を彩(いろど)った。

 

 

 

 それから、クオン達も、自分達で花火をする事となった。
ファス「クオン!花火、買ってきたよ」
 と言いながら、ファスは市販の花火を抱えてやってきた。
アグリオ「バケツの用意は-すみました」
 アグリオは水の入ったバケツを手に歩いてきた。
クオン「よし、じゃあ、花火しよっか」
 そう言って、クオンは-ほほえんだ。

 

 それは、まさに青春の一幕(ひとまく)だった。そして、失われ行く日常だった。
クオン「でも、俺はさ、打ち上げ花火よりも、線香花火の方が好きなんだ」
ファス「ずいぶん、地味な皇子様だねぇ」
クオン「ハハ・・・・・・そうだな。向いてないんだよ、俺は」
アグリオ「・・・・・・クオン、私達は-あなたが皇子だから、これ程まで-そばに居るわけでは無いのですよ。あなたのその謙虚さ、清廉さ、そういったモノに私達はひかれているんです。私は真に思います。あなたが皇子でよかったと。そして、思うでしょう。あなたが王になってくれてよかったと」
 そのアグリオの言葉にファスとリグナもうなずいた。
クオン「ありがとう・・・・・・皆(みんな)・・・・・・」
リグナ「さーて!じゃあ、残りの花火も、やっちまおうぜ!」
クオン「ああ」
 そして、夜も深まっていくのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
翌日、式典が始まった。
 人々は皇子の出番をテレビの前で今か今かと待ちわびた。
 式場には各国の関係者を始め、名だたる重鎮達(じゅうちんたち)が、そろっていた。
さらに、ケルサス国王、イザベル皇后の両人も公(おおやけ)に姿を現していた。

 

   《ケルサス》

 

 そして、控え室にクオンとサムは居た。
サム「皇子?大丈夫ですか?今日は失敗-出来ませんよ」
クオン「サム。大丈夫だよ。行こう」
 そう言って、クオンは立ち上がった。その誇り高い姿を見て、サムは微笑みを浮かべた。
サム「ええ。行きましょう。クオン皇子殿下」
 そして、サムは先導していった。

 

『クオン・ヤクト・アウルム皇子殿下、御入来(ごにゅうらい)!』
 との声が式場に響いた。
 そして、正装に身を包んだクオンが姿を現した。
 その神々(こうごう)しい姿に、男女問わず、来賓達(らいひんたち)は息を飲んだ。
 そして、いよいよ、儀式は厳(おごそ)かに始まるのだった。

 

 儀式は、つつがなく進んでいった。

 

クオン「我、クオン・ヤクト・アウルムは王位継承を約束された者として、女神アトラとの契約を果たさん。女神アトラよ。我が力、認めたまえ」
 と言い、クオンは眼前の縦に置かれた巨大な棺(ひつぎ)に手をつけた。その棺の中に、クリスタルが安置されているのだった。
さらに、その正面には王剣が埋め込まれており、クオンは剣の少し上に手を置いていたのだった。
 すると、突如として棺(ひつぎ)に魔方陣が浮かんだ。ここまでは予定通りだった。しかし、次の瞬間、クオンの脳裏に鮮烈なイメージが浮かんだ。
 それは、幼い頃のクオンであり、そして・・・・・・。
クオン「・・・・・・」
 しばらくの沈黙の後、クオンは王剣を棺の正面から取り出した。そして、剣を鞘(さや)から引き抜き、鞘(さや)に戻した。
それから、クオンは王剣を腰につけた。
クオン「・・・・・・今、契約は-かわされた。女神アトラよ。貴方(あなた)より授かりし、この力、王国と、その民のためにのみ用いる事を、重ねて誓おう」
 そして、クオンはうやうやしく礼をした。
 それから、クオンは観衆の方を振り返り、頭を下げた。
 次の瞬間、盛大な拍手が巻き起こった。
 すると、クオンは、父であるケルサスと、目が合った気がした。ケルサスは感情を見せず、品定めをするような無機質な目でクオンを見ていた。
 クオンは目をそらし、ふと上方を見た。
クオン(ああ・・・・・・終わったんだな。俺の少年時代が・・・・・・)

 

 

そして、儀式は終了したのだった。

 

  ・・・・・・・・・・
 帝都ホテルの最上階にクオンは居た。
クオン「・・・・・・・・・・・・」
 クオンは一人でパーティの中に居た。どういうワケか、周囲にはSPや付き人が居なかった。
 すると、クオンの目に、一人の侍女(じじょ)が止まった。
クオン(そう言えば、あの人、セレネ姫の侍女さん。確か・・・・・・名前はレナだっけ?でも、セレネ姫も護衛のシャインさん-も、見当たらないし・・・・・・。というか、シャインさん。今頃、何をしてるんだろう?)
 と、想うのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
 辺りで後夜祭(こうやさい)が行われている中、離宮にてシャインは物憂げにたたずんでいた。
 すると、ヤクト人の使用人がモップ掛がけをしながら近づいて来た。
使用人「本国で、クーデター発生。軍、並びに、議会は完全にニュクス・社会統一党に掌握(しょうあく)された模様。また、ラース-ベルゼに不穏な動き-あり」
 と言い、去って行った。
シャイン「・・・・・・始まってしまったか・・・・・・」
 そして、シャインはノワールの元へと向かった。

 

 そこには、シャインを除く中隊員が全員、揃(そろ)っていた。
ノワール「あら、早かったじゃない。今、呼びに」

 

   《ノワール》

 

 次の瞬間、シャインのニホン刀がノワールの喉元(のどもと)に突きつけられた。あまりの抜刀(ばっとう)の早さに、周りの誰もが反応出来なかった。
ノワール「どういうつもりかしら?」
シャイン「とぼけるな。何が目的だ」
ノワール「目的?ああ、知ってしまったのね。我々、ニュクス・社会統一党が軍事クーデターを起こした事を」
シャイン「この時期・・・・・・お前達はラース-ベルゼ国と共に、ヤクトを攻める-つもりか?」
ノワール「そう。そのために、私達は-ここに居るのよ。ヤクトを制圧するために。あぁ、皇女様は囮(おとり)よ。私達がヤクトに自然に入国する為(ため)の道具ね。今頃、皇女様も拘束されてるんじゃ-ないかしら?」
シャイン「そのような事、許されると思っているのか?」
ノワール「社会を正しい形に導く為(ため)よ。大体、シャイン。あなた、自分が何をしているか分かっているの?軍に逆らえば、貴方の大切な人達も反逆の罪で殺されるかも-しれないのよ」
 しかし、シャインは刀をノワールから-どかそうとしなかった。
 すると、巨兵バルボスが口を開いた。

 

   《バルボス》

 

バルボス「シャイン殿。どうか、矛(ほこ)を、お納め下さい。私共は救国の徒とである貴方(あなた)と刃をまじえたく、ありませぬ」
 その言葉にシャインは顔をしかめ、刀を鞘(さや)に納めた。
ノワール「それでいいわ、シャイン。さぁ、特命よ。あなたには、ヤクトのクリスタルの守護者たる使徒を殺して-もらうわ。貴方(あなた)のお友達と一緒にね」
 と、ノワールはニヤリとしながら告げた。

 

 ・・・・・・・・・・
 一方、同じく離宮にて皇女(おうじょ)セレネは一人、ベッドに転がっていた。
 すると、突然、ドアが勢いよく開けられた。
セレネ「誰です?無礼な」
 そこにはニュクスの騎士が数名居た。
セレネ「あ・・・・・・。もしかして、火急(かきゅう)なのですか?」
騎士A「セレネ・ニュクス・フォルテ。貴様を拘束する。大人しく、両手を上げ、投降せよ」
セレネ「何を言って」
騎士A「黙れ。この血で操られた人形が。貴族や王の時代は終わりを告げたのだ。お前達、無駄飯-喰らいは、大人しく、我ら、社会統一軍に従えばいいのだ。命があるだけ、マシに思え。おい、何をしてる。さっさと拘束しろ」
騎士B「は、はい」
 そして、騎士達はセレネを拘束するのだった。

 

 ・・・・・・・・・・
王宮、クリスタルの塔、枢密院(すうみついん)・御前-会議室にて。
 ヤクトの国王であるケルサスと、枢密院の顧問官は立ち上がり、魔力を発動させていた。
 一方、ラース-ベルゼ側(がわ)は魔法の発動を寸前で止めている状態だった。
ケルサス「どういう、つもりかな?エルダー・ゼノン国家-副主席?議定書の内容が悪かったなら、謝るが。それにしても、悪ふざけが、過ぎるのでは?」
 とのケルサスの言葉に対し、エルダー・ゼノンと呼ばれた老人は鼻で笑った。

 

   《エルダー・ゼノン》

 

ゼノン「ハッ。いい加減、現実を受け入れたらどうだ?
    ヤクトの豚よ!お前達は、ここで死ぬのだ!」
 その言葉が終わるや否や、展開された魔法が、ケルサスの張った結界とぶつかり合った。
 そして、ケルサスと顧問官-達の魔力がエルダー・ゼノンとその護衛官-達に向けて放たれた。
 しかし、一人のメガネを付けた、ヤクトの枢密院(すうみついん)の顧問官は、隠し扉を開き、震えながら逃げ出していた。

 

 ・・・・・・・・・・
 帝都ホテル、最上階にて。
クオン「・・・・・・」
 クオンは一人、まだ、イスに座っていた。
 周囲の人間達は、クオンの神妙(しんみょう)な雰囲気から、話しかけられずに居た。
クオン「はぁ・・・・・・」
 クオンは、ため息をつくと、ホールを歩き回った。
 すると、羽ウサギのウサが居た。

 

   《羽ウサギのウサ》

 

クオン「あ、ウサ?」
ウサ「あっ、クオン皇子ーーー!」
クオン「元気にしてたか?」
ウサ「え?ウサ、元気だよ」
クオン「・・・・・・待て・・・・・・。なぁ、ウサ。そうだ。俺は三日前セレネ姫から、ウサを贈られて・・・・・・。あれ?でも、記憶に無い?いや、受け取ったって記憶は、あるのに実際に受け取ったシーンを思い出せない・・・・・・」
ウサ「クオン皇子、大丈夫?」
クオン「あ、ああ。ごめん、ちょっと、頭が痛くて・・・・・・」
 クオンの頭は急に痛み出していた。
ウサ「あっ。ウサ、トリート(回復魔法)、使えるよ。あっ、でも、首輪、無いと使えないんだった」
クオン「なぁ、ウサ。俺は三日前、ウサと友達になったんだよな」
ウサ「うん。ペットじゃなくて、友達って、皇子、言ってくれたの。ウサ、嬉しかったの」
クオン「そうだ・・・・・・、そうだった。うん、その場面は思い出した。ごめん、ちょっと疲れててさ」
ウサ「クオン皇子、頑張りすぎなの。体には気をつけて」
クオン「ああ。そうするよ・・・・・・。え?」
 すると、クオンは一瞬、凍り付いた。
クオン「逃げろッ――――――!窓から離れるんだッ!早くしろッッッッッッッッ!」

 と、クオンは突然、叫んだ。人々は何事かと皇子の方を振り返った。
 次の瞬間、小型の飛翔艇(ひしょうてい)が窓に突っこんできた。

 

 

 クオンはウサを抱え、カーペットを転がった。そして、急いで首輪型の魔導-制御器を付けた。
クオン『プロテクト、スフィア』
 と、すぐに、二つの守護魔法を唱えた。
 そして、前方から銃声が響いた。血しぶきが舞い、一瞬、遅れて、絶叫と悲鳴があがった。
飛翔艇の中からは、ラース-ベルゼの軍服を着て、銃を持った兵士が次々と現れていた。
クオン「嘘だ・・・・・・。クソッ」
 クオンは燭台(しょくだい)のロウソクの炎を吹き消し、ロウソクを取った。
 その行為を一瞬で行った後、先端のとがった燭台(しょくだい)を兵士の一人に投げつけた。
その魔力のこもった燭台(しょくだい)は-兵士を貫き、腹部に突き刺さった。
 すると、兵士達の視線がクオンに集まった。
 兵士達が一瞬、躊躇(ちゅうちょ)してる内にクオンはウサを抱え、後方に駆けだしていた。
ウサ「クオン皇子、怖いよぅ」
クオン「捕まってろ!」
 としか、クオンは言えなかった。
クオン(戦っちゃ駄目だ。敵はプロだ。だけど、あれはラース-ベルゼの兵士?クソッ、何で)
 と、クオンは一瞬で思考しながら、一つ下の階に-たどり着いた。

 すると、前が人ゴミで通れなくなっていた。
 仕方なしに、クオンは壁を蹴って、先へと進もうとした。
 非常階段の扉の上に飛び乗ると、階段の下からも、銃声が響いた。
クオン(囲まれてる?クッ。そうだ、サム。サムに連絡がとれれば)
 そして、クオンは通常の無線機を取り出し、操作するも、雑音しか流れなかった。
 クオンは扉の上で震えた。
クオン(嘘だ・・・・・・。これは、魔導ジャマー?無線封鎖されてる・・・・・・。これじゃ、まるで、本格的な戦争じゃないか)
 と、クオンは戦慄(せんりつ)するのだった。
 すると、魔力同士の衝突の余波がクオンに触れた。
 みれば、貴族の能力者が次々と、一人の男に殺されていた。
その男は、ふざけた事に、日傘を片手で持ちながら、もう片手でアサルト・ライフルを扱い戦っていた。

 

 

 すると、一段落したのか、男はクオンの方を向いた。
男[お?ああ、そうだ。また、会ったなぁ!皇子様よぅ!]
 と、男はラース-ベルゼ語で叫び、数発の弾丸を放った。
 クオンはとっさに、その弾を避けたが、魔力のこもった弾丸はクオンを追尾してきた。
 クオンは足にまとった魔力で、ホールを縦横無尽(じゅうおうむじん)に駆けるも、弾丸を振り切れなかった。
クオン(魔力を帯びてるぶん、通常弾より遅いけど、それでも)
 と、クオンは一瞬で思考し、そして、窓を突き破った。
 それから、窓の縁(ふち)を逆さまの状態で蹴り、下方に向けて、一気に加速した。
 しかし、弾丸は、それでもクオンを追っていった。
ウサ『皇子!ウサ、キャンセル、使えるよッ!首輪あれば、使えるよッ!」
クオン『頼む!』
 と、クオンは念話で一瞬で会話し、羽ウサギに一瞬で予備の魔導機を付けた。
ウサ『キャンセル』
 と、ウサの魔法解除-呪文が発動し、弾丸は無力化され、
あらぬ方向へと飛んでいった。

 

 

クオン『フロート』
 と、クオンは浮遊魔法を唱え、衝撃をやわらげ、何とか着地に成功した。
クオン「クゥ・・・・・・」
 しかし、両足の骨は折れかかる程の衝撃が、クオンの全身を襲っていた。
ウサ「大丈夫?クオン皇子?」
クオン「あ、ああ。大丈夫だ。それより、ここは十階くらいの外周部か?・・・・・・。まずい。下でも戦闘が起きてる。いや、違う・・・・・・」
 と言って、クオンは街中から上がる炎を見た。
クオン「首都エデン、全体で戦闘が起きてる?」
 そして、クオンは辺りを急いで見渡した。すると、そこには通気口があった。それは、ちょうど、小さなウサが入れる程の大きさだった。
 クオンは急いで、通風口のカバーを、無理矢理、開けた。
クオン「ウサ、急いで、この中に隠れるんだ。少し、ホコリっぽいかもしれないけど、我慢だ」
ウサ「え?クオン皇子は?」
クオン「俺はいいんだ。奴らは、きっと、俺を狙ってくる。俺と一緒じゃ危ない。早くしないと」
ウサ「でも・・・・・・」
クオン「ごめん」
 そして、クオンは睡眠魔法『スリープ』を唱えた。

 すると、ウサは眠ってしまった。
 クオンはウサに浮遊魔法と-プロテクトとスフィアの守護魔法が-かかっているのを確認すると、ウサを通風口の中に優しく-入れた。
クオン「ごめん・・・・・・、この建物が壊れちゃったら危険だけど。俺といるよりは、きっと安全だから。守護魔法もかけた事だし」
 と、つぶやき、クオンは駆けて行った。

 

 日傘の男、ツヴァイは、群がる貴族達を次々と殺していった。
ツヴァイ[あー、あー、あー。このバカどもが。皇子を攻撃したら、とたん、発狂しやがって。クソ。時間を無駄にした]
 すると、一人の横たわった老人が血を吐きながら、口を開いた。
老人「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・。ラース-ベルゼ・・・・・・。お前達は必ず、敗れ去る・・・・・・。クオン、皇子殿下・・・・・・。後は・・・・・・」

 

 

ツヴァイ[何、言ってっか、わかんねぇんだよ]
 と言い捨て、老人の頭に弾丸を撃ちこんだ。
ツヴァイ[よし、よし。まぁ、こんなもんか?おい、お前ら、俺は、これから、あのクソ皇子を追う。いいな]
 と、ツヴァイは兵士の一人に言った。
兵士[で、ですが、ツヴァイ様。本部よりの命(めい)はあくまで、帝都ホテルの制圧では・・・・・・]
ツヴァイ[俺は誰だ?]
兵士[レベル7能力者の、レザナ・ツヴァイ上級大尉(たいい)-殿であります]
ツヴァイ[そうだ。曹長(そうちょう)、ごときが、俺に指図するつもりか?]
兵士[ですが、本部よりの命(めい)は、最優先-事項でありまして]
ツヴァイ[なら、本部に連絡しろよ。今すぐ]
兵士[で、ですが、無線封鎖の中での本部への連絡は困難かと・・・・・・]
ツヴァイ[いいから、やりゃあ、いいんだよ。本気で走ってきゃ、数分で着くだろ?チッ、それでも、時間がかかりすぎるが・・・・・・。何やってる!早く、しろ!]
兵士「はっ、はい!」
 そして、兵士は急いで部下に連絡を命じていた。
ツヴァイ[クソ。レヴィアの手が-あいてりゃ、一瞬で念話が通じるのによ・・・・・・]
 と、ツヴァイは吐き捨てた。

 

 ・・・・・・・・・・
一方、クオンは連絡橋を慎重に駆けていた。駅へと通じる、長い長い-その通路には幸い、敵の姿は無かった。
クオン(下には、ラース-ベルゼ兵が居る。ぎりぎりまで、このまま、進めれば・・・・・・)
 と、思いながらクオンは駆けていた。
 一般的に、強い防御結界をかけると、その強さの分、動きが遅くなる。クオンは狙撃などを恐れて、かなり、強く防御結界を張っていたため、移動がどうしても遅くなりがちだった。

 

 すると、何かがクオン目がけて降ってきた。
クオン(マズイ)
 クオンは、とっさに前に跳躍(ちょうやく)し、守護魔法-プロテクトを重ねがけした。
 次の瞬間、何かが地面に着弾し、爆風でクオンの魔法障壁(しょうへき)は粉々となった。
 さらに、衝撃でクオンは転げ回った。
クオン「・・・・・・プロテクト、スフィア・・・・・・」
 と、クオンは立ち上がりながら、守護魔法を再び張った。
クオン(今のは迫撃砲[はくげきほう]?・・・・・・クッ、また来る!)
 クオンは懸命に駆けたが、爆風をかわしきれなかった。
 それでも、クオンは致命傷には、いたってなかった。
クオン(ヤバイ、ヤバイ。逃げないと。早く、逃げないと。死ぬ・・・・・・。本当に、死ぬ。何だよ。これ。大体、迫撃砲って、もっと、精度が悪いはずなのに・・・・・・。いっそ、守護魔法を解いて、全力で駆け出すか?駄目だ。狙撃兵が、その瞬間を狙ってるかもしれない。今かけてる-だけの守護魔法なら、狙撃兵の心配はない)
 といった内容を、クオンは瞬時に悟った。
 そして、再び駆けだした。

 

 クオンから数キロ離れた、その更地(さらち)に、ニュクス特殊戦団、第五コマンド-中隊が居た。彼ら-は火力部隊であり、敵を爆散させる事に特化された部隊だった。
 その中央に、一人の巫女(みこ)が魔方陣の上に、薄着で座りこんでいた。

 

 

巫女『アイン1、こちら、ソーサレス1。着弾確認。対象、なおも、駅方面へと前進中。効力射(こうりょくしゃ)を要求。着弾点より、次の位置へ、修正されたし』
 と、巫女は砲兵にクオンの位置を念話で送った。
砲兵『ソーサレス1、こちら、アイン1。了解。これより、効力射に入る。以上』
 と、砲兵は肉声が届く範囲であったが、あえて念話を送った。
 その返事を聞き、巫女は心眼(しんがん)でクオンを見つめた。

 

クオン(見られてる?何処(どこ)だ?)
 と、クオンは直感した。
 すると、クオンの瞳が赤く輝いた。
さらに、クオンの視界が赤く染まった。
クオン(何だ?世界が・・・・・・)
 さらに、クオンの視界は赤から、白黒へと移っていった。
 クオンは上空に巨大な瞳が浮かんでるのを見つけた。

 

 

クオン(そこか!)
 次の瞬間、上空から霊体の光の矢が降り注いだ。
 それはクオンが無意識に放った技だった。
 霊体の瞳に霊体の矢が次々と突き刺ささり、瞳は霧散(むさん)していった。

 

巫女「アーーーーーッ!アアアアッッッッッ!」
 と、巫女は絶叫をあげた。その右目はフィード・バック(はね返り)を喰らい、血にあふれていた。
 右目を押さえ、巫女は、なおも泣き叫び続けた。

 

 

護衛「衛生兵を呼べッ!早く!」
 と、叫んだ。
部下「はっはい」
 そして、あたりは騒然とし出した。彼らにクオンを追う事は不可能だった。

 

クオン「よし、気配が消えた」
 と、小声でつぶやき、クオンは駆けだして行った。

 

アーカーシャ・ミソロジー

 

 

 

〈この内容は要約版です。実際の作品とは内容が多少、違います〉

 

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